概論
発熱(fever)と高体温(hyperthermia)とは区別しなければならない。発熱とは視床下部体温中枢においてサーモスタットが通常より高くセットされ、その為に筋収縮により熱の産生が増し、末梢血管収縮により熱放散が抑えられる状態である。この場合には正常体温の日差と同様に、朝低めで夕方からよるにかけて上昇することが多い。高体温とはサーモスタットのセットレベルは通常のままで、体温調節が利かなくなった状態であり、危険な状態にもなり得る。脳疾患、悪性高体温症(内因性熱産生)、熱射病などで起こる。発熱と異なり、正常な日差と同様なパターンはみられない。発汗や血管拡張による熱放散を抑制する薬剤も高体温を生ずる。高体温の場合、アスピリンのごとき解熱剤は禁忌である。発熱物質は外因性と内因性に分けられるが、前者は直接に働くのではなく後者を介して視床下部に働く。外因性発熱物質として有名なのはグラム陰性桿菌由来リポ多糖類(LPS)であり、エンドトキシンと呼ばれる、その他の細菌由来物質、ウイルスや真菌由来物質なども外因性発熱物質となる。内因性発熱物質としては、アンドロゲンの分解産物であるエチオコラノロンが一次注目されたが、最近ではマクロファージ由来のIL-1が重要と考えられている。これら内因性発熱物質は、視床下部におけるプロスタグランジン(特にPGE)の合成を高めて、サーモスタットのレベルを上げる。臨床的には通常の検索を行っても診断が確定せず、38゜C以上の発熱が2週間以上続く場合を不明熱(FUO)と呼び、各種特殊検査の併用、各分野における専門的知識を動員して、診断を確定することが急がれる。一般にはFUOとして感染症が最も多く、悪性腫瘍や膠原病などがそれに続く。
病歴からのアクセス
@本人の通常体温レベルは?女性の場合生理周期との関連は?
A朝低めで夕方から夜にかけて上昇するような日差があるか?
B発熱の発症が急激か緩徐か?
C熱型が稽留熱か弛緩熱か?腸チフスのごとき特徴的な熱型は?無熱期と発熱期が交互に来る回帰熱では?Pel-Ebstein型では?
D年齢、基礎疾患の有無、栄養状態、免疫不全をきたす疾患の有無、免疫抑制剤、ステロイド剤、抗癌剤、抗生剤などの投与の有無。
E薬剤アレルギーはないか?
F周囲環境における感染症の流行状況。
G海外渡航歴は?生肉の摂取は?
H愛玩動物は?
I性格異常など詐熱の可能性は?
主要症候からのアクセス
@消化器、呼吸器、循環器、神経系などの異常があれば、各々の方面での検索。
A悪寒、戦慄を伴う弛緩熱は細菌による菌血症、敗血症、マラリア、輸血反応等の可能性。
B体温に比して脈拍が多くなければ(比較的徐脈)、腸チフスの可能性。
C体重減少、悪液質などでは悪性腫瘍や、結核などの慢性感染症に注意。
Dある程度の関節痛は発熱に伴っても良いが、圧痛、運動痛、腫張などがあればリウマチ性疾患、痛風、細菌性関節炎など。
E発疹としては猩紅熱の徴候、風疹、麻疹などの紅斑、腸チフスのバラ疹等が特徴的。その他のウイルス性疾患でもび慢性の発疹がみられることもあり、SLEの顔面蝶型紅斑、皮膚筋炎の眼周囲ヘリオトロープ疹。薬剤アレルギーでは斑状、丘疹状、じんま疹状など種々の形があり得る。
F水疱形成は水痘、帯状疱疹に多く、前者では全身性の分布、後者では三叉神経肋間神経などに沿って出ることが多い。
Gリンパ節腫張として、急性ウイルス性疾患では小さく圧痛があることが多く、結核性では腺塊を形成。悪性リンパ腫、悪性腫瘍の転移などでは硬く圧痛はない。
H頻拍、手指振戦、発汗などを伴う場合、甲状腺機能亢進症に注意。
臨床検査からのアクセス
@血算、血液像、血沈、生化学検査、蛋白分画、検尿。
A血清学的検査:CRP、リウマトイド因子、抗核抗体、LE細胞、LE-テスト、抗DNA抗体、抗ENA抗体、血清補体価、免疫複合体。
B甲状腺機能検査。
C胸部、骨関節レ線、各種造影検査。
D細菌培養(喀痰、咽頭、尿、便、血液、胆汁、髄液、骨髄)。
E真菌培養(喀痰、尿、便、髄液)。
Fウイルス分離(水疱液、髄液、血液など)。
G抗体検査(クリプトコッカス、カンジダ症)。
H抗原検出(クリプトコッカス、カンジダ等)。
I骨髄穿刺、リンパ節、皮膚、筋などの生検、膿瘍穿刺。
Jツベルクリン反応。
K画像診断(超音波、シンチ、ガリウムシンチ、CT、血管造影)。
L癌抗原(AFP,CEA,CA19-9など)。
診断の鑑定へ
日常の臨床では感染症とその他との鑑別が問題となることが多い。とくに細菌性感染症では適切な抗生剤の投与が急がれることもある。また真菌症の場合には、抗真菌剤の副作用が強いこともあり、的確な診断が必要となる。場合により抗生剤、抗真菌剤の投与を中止して、細菌、真菌の検査を行うことも必要となる。詐熱は弱齢女性で医療従事者等や、30〜40歳で精神的問題がある者などであり得る。体温曲線が通常の日差を示さないことや、発熱以外の症状、検査異常が伴わないことなどが手掛りとなる。体温測定時に付き添っていても見破れないことがあり、排尿したばかりの尿の温度を測ることで判明する。以下に比較的頻度の高い発熱性疾患について述べる。
@細菌感染症:a.肺炎:胸部レ線と喀痰あるいは気管支鏡採取検体の培養で診断されることが多い。肺炎球菌、インフルエンザ菌などが多い。マイコプラズマ肺炎は約4年の周期で流行するが、培養には独自の培地を必要とする。補体結合反応、PHA法などで回復期に抗体の上昇をみて、後日診断がつくことが多い。結核は胸部レ線、喀痰、胃液などの培養、ツ反などで。b.尿路感染:定量培養で10^5/ml以上あれば起炎菌としてよい。大腸菌、クレブシエラなどが多い。c.消化管感染:サルモネラ、病原性大腸菌などの検出。Salmonella typhiによるものは腸チフスであるが、今はあまり多くない。特徴的熱型、比較的徐脈、好酸球消失。バラ疹、脾腫。菌の分離は血液からが早く、便から培養されるのは遅れる。血清学的にはヴィダール反応。d.胆道感染:十二指腸ゾンデで採取した胆汁の一般検査、培養を行うが、起炎菌の同定は困難なことも多い。大腸菌やクレブシエラが多い。e.髄膜炎:髄膜刺激症状や髄液の一般検査、培養。髄液は元来無菌的なので、培養されればほぼ起炎菌といえる。髄膜炎菌、肺炎球菌などが多い。f.心内膜炎:心雑音、心エコー、血液培養。緑連菌、ブドウ球菌、溶連菌などが多い。起炎菌とするには2回以上検出されるべきである。g.膿瘍:肝膿瘍が多いが、右季肋部痛を伴い、エコー、シンチ、CTなどで所見を得る。エコーガイド下での膿瘍穿刺で起炎菌の決定。
Aウイルス感染症:a.麻疹、風疹:流行状況、発疹の出現方式、性状。前者ではコプリック斑、後者では耳介後部リンパ節腫脹などが特徴的で、臨床的に診断をつけることが多い。抗体測定は血球凝集阻止反応、補体結合反応などであるが、回復期にしか確定しない。b.インフルエンザ:感冒症状に加えて頭痛、腰痛、筋肉痛、関節痛などを伴う。咽頭からのウイルス分離、抗体測定などもあるが一般的ではない。c.伝染性単核症:咽頭炎、リンパ節腫脹、異型リンパ球増多、ボールバンネル反応などの他に、EBウイルスに対する抗体価(VCA抗体、EA抗体、EBNA抗体)。
B膠原病および類縁疾患:a.SLE:蝶型紅斑、関節痛、レイノー現象、腎症、胸膜炎、心膜炎、抗核抗体(shaggy,homogeneous)、LE細胞、LEテスト、抗DNA抗体、抗ENA抗体、免疫複合体、血清補体価。症状面では典型的でなく、血清学的検査で診断を得る例も増えている。抗二本鎖DNA抗体、抗Sm抗体、腎生検でのwire-loop病変などは診断的意義が高い。b.成人発症スティル病:スパイク状発熱、関節炎、サーモンピンク色の一過性紅斑。c.側頭動脈炎:側頭動脈の有痛性腫脹。眼病変。側頭動脈生検にて確定。d.多発性動脈炎:全身症状、神経筋症状。腎病変、心病変、消化管病変など多彩。神経筋の生検で血管炎の組織像。腹腔動脈造影で動脈瘤、分節状狭小化などが特徴的。e.過敏性血管炎:薬剤、感染などに対するV型アレルギー反応(免疫複合体型)と考えられているが、起因抗原は確定できないことが多い。紫斑、出血性梗塞その他の皮疹が出現し、生検で細静脈の特徴的炎症像。
C血液疾患:FUOとしては悪性リンパ腫が多い。白血病も発熱を伴うことが多いが、骨髄穿刺でかなり診断は可能。生検リンパ節組織で細胞表面マーカーを検索することも重要。深在性リンパ節の腫大を発見するのには、CT検査、リンパ管造影。
D固形腫瘍:FUOとしては多くないが、各種の悪性腫瘍で発熱はあり得る。腎癌ではときに高熱を出す。おのおのの臓器毎に検査が必要。ナプロキセン投与で解熱するのは感染でなく、腫瘍であるとの意見があり、試みる価値がある。
E肉芽腫性疾患:サルコイドーシスの場合、皮膚病変、末梢神経炎、眼症状、肝、心、肺などの病変。胸部レ線、血中アンギオテンシン変換酵素の上昇。皮膚、リンパ節、唾液腺、肺などの生検組織像で確診。
鑑別すべき疾患
1.敗血症、心内膜炎、2.結核(肺炎)、3.胆道感染、肝膿瘍、4.腎盂炎、5.腸チフス、6.マラリア、7.髄膜炎、8.麻疹、風疹、9.インフルエンザ、10.伝染性単核症、11.全身性エリテマトーデス、12.慢性関節リウマチ、13.皮膚筋炎、14.多発性動脈炎、15.成人発症スティル病、16.過敏性血管炎、17.側頭動脈炎、18.各種固形腫瘍、19.白血病、20.悪性リンパ腫、21.サルコイドーシス、22.甲状腺機能亢進症、23.詐熱。
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