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浮腫

三田村忠行

概論

 浮腫は臨床的にはいわゆる「むくみ」で、よくみられる症候の一つで、細胞間質に体液が過剰に貯留する状態である。体内に含まれる水分は体重の約60%に相当し、細胞内、血管内、間質の分画に以下のような割合で分布している。

         −−細胞内2/3
 体内総水分   |      −血管内1/4
 (体重の60%) −−細胞外1/3 −血管外3/4
                −(間質)

間質の水分はしたがって体重の約15%と考えてよいB細胞外液が血管の内外に分布する割合を決定しているものは末梢循環におけるスターリング力(Starling force)と血管壁の透過性である、健康人ではこの2因子はほぼ一定しており、血管内外の水移動は動的平衡が保たれている。血漿コロイド浸透圧の減少、組織内コロイド浸透圧上昇、末梢血管系における静水圧の上昇や壁透過性の亢進、組織圧減少が何らかの原因で生じることの平衡は血管外液増加の方向に転じ、やがて浮腫状態となる。臨床的に浮腫を生ずる原因は多数存在し、ほとんどすべての臨床領域に及んでいる。浮腫は分布により限局性と全身性に分けられる。全身性浮腫も軽症のときは下肢や体幹背部に限局してみられるのであるが、原因が矯正されずに進行した場合全身に浮腫が及び、さらには漿膜腔にも溢水することもある(これをアナサルカanasarucaという)。局限性浮腫の原因:@局所の炎症、ケミカルメジエーター放出。A静脈還流異常。Bリンパ還流異常。C神経血管性浮腫。全身性浮腫の原因:@心不全。A腎疾患。B肝硬変。C栄養障害。D医原性(輸液過剰、鉱質コルチコステロイド過剰投与など)。E特発性。

病歴からのアクセス

 @病状の把握:
 a)浮腫の出現のパターン:急性か慢性か?一過性か持続性か?全身性か限局性か?両側性か?陥凹性か非陥凹性か?
 b)尿量の変化の有無。
 c)体重の増減の有無。
 d)発熱、疲労感などの随伴全身症状の有無。
 e)浮腫以外に呼吸困難などの臓器特異症状を伴うか。
 A基礎疾患鑑別のために:
 a)心、腎、肝や内分泌代謝疾患、高血圧症の既往。
 b)服用中の薬物の有無と種類。
 c)手術、放射線照射の記録。
 d)過剰の水分摂取、輸血。
 e)妊娠、生理周期。f)アレルギーの既往。

主要症候からのアクセス
 @浮腫の存在診断:症候学的には、皮膚を指で押して指圧痕が残るとき、浮腫があるとする。間質水がどの位増加したらそうなるかは、皮下組織の量や疎密により異なるが、全身性浮腫では3l以上の過剰貯留が必要である。炎症性の浮腫では炎症細胞に浸潤があり、指圧痕は軽い。また慢性のリンパ管や静脈の還流異常では間質の線維化、皮の肥厚を伴い陥凹性でなくなる。粘液水腫のように皮下の間質に貯留するものが水分だけでなく多糖などの物質である場合には腫脹部は指圧により陥凹せず、浮腫と区別できる。
 A浮腫の分布:局在性の浮腫ではその原因も局所の脈管系に存在する。悪性腫瘍による静脈、リンパ管の閉塞、リンパ節郭清術やリンパ節放射線照射によるリンパ流の遮断、血栓症により、その部より末梢に浮腫が生じる。全身性浮腫でも最初は組織が疎で組織圧の低い部位や静水圧のかかりやすい部分に出現し、一見限局性である。したがって早期には下腿、足背部、背部や後頭部、早朝では眼瞼で検出しやすい。
 B浮腫の程度:体重の増加の程度が全身浮腫の程度を最も正確に反映する。限局性の浮腫では四肢や頚部の周径を測定しておくとよい。
 C原因疾患由来の症状の有無:
 a)腎疾患:原発性腎疾患では尿量の減少、高血圧尿毒症症状以外は無症状。続発性腎疾患は、糖尿病、膠原病、アミロイドーシス多発性骨髄腫などの疾患の症状を伴う。
 b)心不全:心肥大、肺水腫、心嚢水、胸水呼吸困難
 c)肝疾患:黄疸、肝脾腫腹水
 D限局性浮腫では局所の熱感、疼痛、?痒感、知覚脱失、皮膚変化の有無に注意。
 臨床検査からのアクセス
 浮腫の原因の鑑別に必要な検査:@一般臨床検査:検尿定性、尿沈渣、血算、血清生化学(総蛋白、アルブミン蛋白分画、BUN、クレアチニン尿酸Na、K、Cl、Ca、P、総コレステロール、総ビリルビン、ZTT、TTT、GOT、GPTAALP)、血沈、凝固系検査。
 A一般画像診断検査:胸・腹部X-P、心・腹部エコー検査。
 B詳細な病歴聴取、身体所見の把握があれば上記検査のみで腎性か、心臓性か、肝性か大方診断が得られる。その上で診断をしぼって次項に述べる検査を行うのがよい。局所性浮腫では感染の合併がない場合一般的臨床検査は異常を示さず、RIや造影剤を用いた画像診断の役割が大きくなる。

診断の確定へ

 @全身性浮腫
 (a)腎性:ネフローゼ症候群、典型的な全身性浮腫が出現する(ネフローゼ症候群の診断基準はp.212を参照のこと)。急性腎炎乏尿期、乏尿性急性腎不全慢性腎不全乏尿期にも全身性浮腫が出現する。
 (b)心不全:高血圧、心弁膜症、不整脈、心肥大の既往のある患者ではまず第一に考えるべきである。確定診断は胸部X-P上の心陰影拡大、肺うっ血像、胸水の貯留をもって容易に行い得る。心超音波検査により弁膜症、心筋症心外膜疾患の鑑別が可能でる。心不全時の輸液管理のためスワンガンツカテーテルを留置すれば、右心系の圧を直接測定できる。
 (c)肝硬変、肝不全:門脈圧亢進、低アルブミン血症、二次性高アルドステロン血症により、非代償期の肝硬変では腹水胸水(肝性胸水)および全身性浮腫が生じる。肝硬変の確定診断のためには肝生検が必要であるが、腹水貯留があるときは施行すべきではない。黄疸、肝脾腫などの徴候、一般的肝機能検査により疑診し、腹部超音波検査と肝RIシンチグラムによる肝の形態の変化、食道胃内視鏡による食道静脈癌の検出により確定診断し、プロトロンビン時間、ヘパプラスチン検査、ICG 検査、血中アンモニア濃度により機能不全の程度を知ることができる。
(d)栄養障害:サイアミン(ビタミンB1)欠乏による脚気は今日の我が国ではまれである。しかし特殊な状況、例えばビタミン補給を怠ったままの長期経静脈栄養、アルコール中毒者、甲状腺亢進症などでは、この疾患の可能性を無視してはならない。脚気による浮腫は高拍出性心不全によるがジギタリスおよび利尿剤に反応しにくいとされている。蛋白質欠乏によるカシオコール病、若い女性にみられる神経性食思不振症も重症例では全身性浮腫が生じる。前者は我が国ではまれであり、後者は病歴より診断可能である。
 (e)医原性:輸液過剰、Na摂取、過剰により、腎、心、肝疾患で浮腫準備状態にある患者は容易に浮腫を生じる。さらに多くの薬剤が種種の機序により浮腫を惹起し得る事実に注意を払う必要がある。(表1)。
 (f)特発性浮腫:浮腫を生じる既知の基礎疾患なしに浮腫を生じる状態である。患者は生理を有する年齢層の女性にほど限られ、性ホルモンの関与が考えられているが証明されていない。浮腫は全身性、起立性で、重症性では胸・腹水も見られる。昼間の尿量の減少、夜間尿の増加、朝夕の著しい体重の変動が特徴である。月経周期とは無関係で、月経前緊張症候群における一過性の浮腫と異なっている。
 A限局性浮腫
 (a)局所の炎症:炎症局所の腫脹、発赤、疼痛に加えて、リンパ流の阻害、静脈系への炎症の波及により末梢部に浮腫を生じる(例えば膝関節炎に続発した下腿浮腫)。感受性のある者では虫さされや薬物に過剰な即時型反応を起こし広汎な蕁麻疹がみられる。診断は病歴、身体徴候より明らかである。
 (b)静脈還流異常:静脈造影、超音波ドップラー血流計、容積脈波計により静脈の形成異常、狭窄、閉塞、弁不全を診断する。
 (c)リンパ還流異常:原発性と続発性のものがある。後者は癌手術の後遺症によるものが最も多い。原発性のものはさらに先天性と後天性に分けられる。これらの異常はリンパ管造影、RI組織クリアランス法により診断できる。
 (d)神経血管性浮腫:神経血管性浮腫は真皮および皮下組織へのリンパの漏出で、真皮内にとどまる蕁麻疹と区別されるが、両者共にケミカルメディエーターによる血管壁透過性亢進によって生じ本質的には同じものと考えられる。特発性(Quincke浮腫)と遺伝性のものがある。Quincke浮腫 では突発的に手背、足背、眼瞼、口唇、粘膜に限局性浮腫を生じ、1両日以内に消失する。診断は容易で特別な検査を要しない。遺伝性ものは常染色体優性に伝達され、活性か補体第1成分に対する血清中インヒビター(C1 Inh)の欠損による。診断はC4低値、C1 Inhの定量・活性測定、家系調査によってなされる。

  表1 浮腫をきたしうる薬剤
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 @非ステロイド系抗炎症剤:インドメタシン、フェニルブタゾン、フルフェナム酸、イブプロフェン、ジクロフェナクNa、アミノピリン、ピラビタール、アセチルサリチル酸、メルロフェナメート。
 Aホルモン剤:副腎皮質ホルモン、エストロジェン、テストステロンAAA HREF="imd00332.html">ADH、ACTH、経口避妊薬。
 B血圧降下剤:レセルピン、ヒドララジン、α-メチルドーバ、β-ブロッカー、ミノキシジル。
 C中枢神経系用薬:カルバマゼビン、クロールプロマジン、オキサゼバム、バルビタール、モルヒネ、ニコチン、イニプラミン。
 D抗生剤・化学療法剤:ストレプトマイシン、PC系薬剤、ST合剤、リンコマイシン、グリセオフルビン、サルファ剤、PAS、ピラジナミド、エタンプトール。
 E抗癌剤:5-FU、サイクロフォススファミド、マイトマイシン、ビンクリスチン、ダウニルビシン、ドキソルビシン。
 FNa含有薬:カルベニシリン、スルベニシリン、PAS-Na、重炭酸Na、グルタミン酸Na、Naイオン交換樹脂。
 G甘草製剤:甘草(リコライス)、グリチルリチン。
 Hその他:抗糖尿病剤(クロールプロパミド)、脂質降下剤(クロフィブレート)。
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(加藤暎一:治療、Vol.67、No.7、32頁、1985.)

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