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胸痛

 川久保清

概論

 胸痛とは、胸部に感じる痛みや圧迫感、絞扼感などを総称して使われるものである。胸痛の原因は多岐であり、心臓のみならず、胸腔内臓器(大動脈、肺動脈、胸膜、食道など)、胸壁組織(皮膚、筋肉、肋骨、乳房、神経など)、横隔膜下臓器(胃、胆嚢、膵臓)などの疾患によって生じる。また起源の明らかでない機能的、人工的胸痛も多い。しかし、胸痛を訴えるものの中には緊急に集中治療を行う必要のあるものがあり、病歴、症候よりすばやく判断することが大切である。

病歴からのアクセス

@部位と性状:
 a.胸骨のうしろ、前胸部の漠然とした圧迫感、絞扼感、灼熱感で、左肩、左上腕内側、顎部に放散する:狭心症心筋梗塞症などの狭心痛。肺塞栓症。
 b.前胸部に始まり、背部から腰部に移動する持続性の胸痛解離性大動脈瘤
 c.左前胸部の比較的鋭い胸痛で頚部や側腹部に放散し、呼吸や体位変換で増強する:急性心膜炎
 d.胸部に限局し、咳や体動で増強する圧痛を伴った胸痛:筋肉痛、神経痛など。
 e.左乳房下部に限局したチクチクするような刺すような痛み:神経循環無力症。
 A持続時間と頻度:
 a.瞬間的な胸部不快が、不定の頻度で生じる。:期外収縮。
 b.数分持続する胸痛が、比較的一定の頻度で生じる:狭心症
 c.30分以上持続する胸痛が1回あった:心筋梗塞症、解離性大動脈瘤急性心膜炎(後二者では1日以上持続することもある)。
 d.短期間であったり、長期間であったり、また不定の頻度で生じるもの:神経循環無力症。
 B誘因と起こり方:
 a.朝通勤の歩行時、階段を上っているとき、食後、入浴中、興奮したとき、喫煙中:狭心症
 b.明け方近く、大酒した後の翌朝、早朝の排尿、排便時:異型狭心症
 c.安静時や睡眠中に突然に:心筋梗塞肺塞栓症。
 d.力んだときや、激しく咳き込んだとき突然に生じる:自然気胸解離性大動脈瘤
 e.誘因を明確にできない疲労時や不安の強いときなど:神経循環無力症。
 C随伴症状:
 a.冷や汗、呼吸困難、悪心、嘔吐心筋梗塞症、重症狭心症解離性大動脈瘤
 b.呼吸困難肺塞栓症、自然気胸胸膜炎
 c.失神、意識障害:異型狭心症解離性大動脈瘤
 d.発熱急性心膜炎胸膜炎
 e.動悸:期外収縮などの各種不整脈
 D胸痛を軽減する因子:
 a.労作をやめて安静にすると治る。ニトログロセリンを舌下する:狭心症
 b.体位を変えると良くなる(起きあがると楽になる):急性心膜炎
 c.何となく知らない内になくなっている:神経循環無力症。
 E危険因子:
 a.冠危険因子:狭心症心筋梗塞症。
 b.高血圧症、出産:解離性大動脈瘤
 c.心不全、長期臥床、骨折術後:肺塞栓症。
 d.若いやせ形の男性:自然気胸
 e.閉経前の冠危険因子のない女性:神経循環無力症。

主要症候からのアクセス

 @緊急性を考えさせる症候:苦悶状態、ショック状態(顔面蒼白、冷や汗):心筋梗塞症、解離性大動脈瘤肺塞栓症。チアノーゼ:肺塞栓症。
 A診断の手がかりになる症候:
 a.低血圧、頻脈、徐脈、V音:心筋梗塞症。
 b.高血圧、頻脈、脈拍の左右差、大動脈閉鎖不全雑音:解離性大動脈瘤
 c.頻脈、貧呼吸:肺塞栓症。
 d.奇脈(収縮期血圧の吸気時低下)、心音の減弱、心膜摩擦音:急性心膜炎
 e.帯状の小丘疹や水疱:帯状疱疹。
 f.胸壁上の圧痛:帯状疱疹、Tietze症候群、肋骨骨折、筋肉痛、肋間神経痛。

臨床検査からのアクセス

胸痛の鑑別に必要な緊急検査

 @12誘導心電図:心筋梗塞症、狭心症発作時、肺塞栓症、急性心膜炎
 A胸部X線:急性心膜炎(心陰影の拡大)、解離性大動脈瘤(大動脈陰影の拡大)、肺疾患。
 B心エコー図:解離性大動脈瘤(大動脈解離腔)、急性心膜炎(心嚢液)。
 C胸部CT検査:解離性大動脈瘤
 DRIシンチグラム検査:肺梗塞症、心筋梗塞症。
 Ea.血沈、CRP,WBC,b.CPK,LDH,GOT,CK-MBアイソザイム、アミラーゼ、c.血液ガス分析。

胸痛の鑑別に必要な待機検査

 @負荷心電図、ホルター心電図:狭心症
 A心エコー図:僧帽弁逸脱症。
 B消化管X線や内視鏡:食道炎、胃・十二指腸潰瘍
 C腹部エコー:胆石症。
 D心理テスト(CMI,YGなど):神経循環無力症。

診断の確定へ

 @心筋梗塞症(疾患編p.92参照):
 a.中年以降の男性で冠危険因子を持つもの、過去の胸痛の既往のないものが半数以上。 b.30分以上持続する胸痛でニトログリセリン無効、冷や汗、呼吸困難などを伴う。
 c.苦悶状態であり、心音ではV音を伴い、乳頭筋不全による収縮期雑音のあることがある。38゜C前後の発熱を伴う。
 d.心電図変化(ST上昇、異常Q波、ST下降)、血清酵素の上昇(CPK,CK-MB,GOT,LDH)WBC上昇が診断の決め手となる。
 e.心エコー図による局所的壁運動異常。RIシンチグラム、心臓カテーテル検査にて診断が確かとなる。
 A狭心症疾患編p.90参照):
 a.冠危険因子を持つ中年以降の男性に多い。
 b.数分以内に消失するニトログリセリンが有効な胸痛で、発作の誘因や頻度が比較的明らかである。
 c.非発作時には特徴的な症候はないが、発作時にはW音、乳頭筋不全による雑音を伴うことがある。
 d.非発作時心電図は、半数以上の例で正常であり、発作時心電図を運動負荷心電図にて確認する必要がある。
 e.冠動脈造影による器質狭窄やスパズムの証明、負荷心筋シンチグラムによる一過性潅流欠損によって診断が明らかとなる。
 B解離性大動脈瘤疾患編p.108参照):
 a.高血圧症、マルファン症候群、妊娠出産、等の危険因子のあるのも。
 b.胸痛は発作時が最も強く、胸部から背部腰部に移動し、数日に及ぶこともある。
 c.大動脈の分枝の閉塞による、脳神経症状、脈拍欠損や大動脈閉鎖不全雑音の症候が見られる。また発症時、一見ショック状態ながら、高血圧を持続する。
 d.冠動脈開口部に解離が及ばない限り、心電図は正常である。胸部X線による大動脈陰影の拡大、心エコー、CTによる解離腔の証明で診断される。発熱、血沈の亢進があるが心筋逸脱酵素の上昇はない。
 e.大動脈造影検査にて診断を確定する。
 C肺塞栓症(疾患編p.139参照):
 a.術後状態、産褥期、血栓性静脈炎、心不全、骨折(術後)、ピル常用などの状態がある。
 b.呼吸困難を伴う胸痛であり、比較的鋭い痛みであり、一過性のこともある。
 c.頻脈、頻呼吸、Up亢進、チアノーゼなどの症候が見られる。
 d.心電図では急性右心負荷(SIQV等)の所見が見られ、胸部X線は正常であるが、罹患部の透過性亢進が見られる。LDH、ビリルビン、FDP、血沈上昇が見られることがある。動脈血ガス分析ではPO2低下、PCO2低下が特徴的である。
 e.肺血流シンチグラムによる肺野欠損像、肺動脈造影検査により診断が確定する。
 D急性心膜炎疾患編p.104参照):
 a.先行する感冒様症状がある。
 b.臥位、左側臥位で増強する胸痛
 c.頻脈、奇脈、心膜擦過音。
 d.心電図ではaVR、V1を除く誘導でのST上昇、T波の陰転、発熱、炎症所見が見られる。心エコー図による心膜貯留液の証明が重要である。
 Eその他の心臓起因の胸痛
 a.不整脈疾患編p.86参照):動悸を伴う胸痛で、誘因が明らかでないことも多い。
 b.僧帽弁逸脱症:心因性に非典型的胸痛であることが多い。心エコー図法において確認することができる。
 c.先天性心膜欠損症:左側臥位で増強する、比較的瞬間的な胸痛
 F神経循環無力症:
 a.不安神経症を基礎に持つものにみられる。
 b.胸痛の誘因、頻度、持続時間は不定であり、動悸、眩暈、窒息感、咽喉頭部の絞扼感を伴う。
 c.頻脈、不安な表情を伴う。
 d.心電図の非特異的ST変化、胸部X線の小心臓。

鑑別すべき疾患

 1.心筋梗塞症、2.狭心症、3.解離性大動脈瘤、4.肺塞栓症、5.急性心膜炎、6.不整脈、7.僧帽弁逸脱症、8.先天性心膜欠損、9.神経循環無力症、10.胸壁筋肉痛、11.肋間神経痛、12.帯状疱疹、13.肋骨骨折、14.変形性脊椎症、15.Tietze症候群、16.胸膜炎、17.自然気胸、18.食道炎、19.縦隔気腫、20.急性膵炎、21.急性胆嚢炎、22.胃・十二指腸潰瘍

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