概論
脾臓は100gの臓器で左第9〜11肋骨の後部にあり、通常肋骨弓内に隠れているため、触知することはない。よって、脾臓が触知できるときは、一般に脾腫があると考えられる。触診上、脾腫を示唆するものは、splenic notchであるが、左季肋化には、腎臓、膵臓、胃、大網、卵巣があり、これらより発生した腫瘤との鑑別が必要である。脾腫は多用な病態で発生するが、それは次のような理由による。@脾臓は網内系の属する臓器であり、網内系の関連する疾患においてしばしば病変が認められる。A脾臓は発生学的に造血の場でもあるため、骨髄の機能が低下した場合、脾臓において代償的に造血が起きることがある。B静脈支配が門脈系であるため、門脈圧亢進による影響を受ける。よって、脾腫の鑑別をする際には、これらの機序を念頭におき、診断をすすめることが重要である。
病歴からのアクセス
@発熱、悪寒など感染症を示唆する症状が先行していないか。
A海外旅行の有無。
B発疹や出血傾向の既往はないか。
C患者自身、又は家族に、貧血、胆石、黄疸、脾腫などの既往の有無。
Dアルコールその他薬物の摂取歴。
E肝機能障害、肝炎などの既往、HB抗原の陽性。
F他の疾患(慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデスなど)に既往はないか。
主要症候からのアクセス
@脾腫は軽度か、中等度かまたは巨大か:脾臓が腹腔の大半を占めるような巨大脾腫は、慢性骨髄性、又はリンパ性白血病、骨髄線維症、マラリアなどで見られ、急性又は慢性感染症、急性白血病などでは、せいぜい中等度の脾腫しか起きない。巨大脾腫では末梢血血液像、骨髄像を見ることが鑑別診断に有用である。
A発熱を伴っているか:発熱、悪寒などを伴う場合、敗血症、伝染性単核症、チフス、マラリア、細菌性心内膜炎などの感染症が多い。一方、悪性リンパ腫、白血病その他の基礎疾患で感染症を併発している場合もあり、鑑別を要する。細菌培養、血液像、また血清学的検査を行う。
B脾腫は急激の増大したのか、また疼痛を伴うか:激しい疼痛を伴うか、また急性腹症様症状を呈する場合、脾臓破裂、被膜下出血の可能性がある。伝染性単核症、また脾腫のある患者が腹部外傷を受けた場合等に多い。慢性骨髄性白血病の急性転化時に、脾腫に疼痛が起きることもある。
C黄疸、肝腫大などがあるか:脾腫と黄疸を伴う場合、高度の溶血性貧血や肝硬変などに伴う門脈圧亢進が考えられる。肝腫大、門脈側副路の怒張、腹水、くも状血管腫の有無、肝機能異常を確認する。また、血算、網状赤血球数、LDH、haptoglobin等で溶血の有無を判定する。
D全身性リンパ節腫張:脾腫に伴う全身リンパ腫の場合に見られる。伝染性単核症の場合は、血液像、Paul-Bunnel反応、抗EBウイルス抗体、肝機能などを調べることで鑑別でき、その他の場合は、一般検査の他にリンパ節生検が鑑別に有用である。
臨床検査からのアクセス
@血沈。
A血算[赤血球数、Hb、Ht、白血球数、白血球像、網状赤血球数、血小板数、血液濃厚塗沫標本(マラリア原虫の染色のため)]。
B血液生化学(総蛋白、アルブミンAA/G比、GOT、GPT、LDH、ALP、γ-GPT、bilirubin(direct、indirect)、TTT、ZTT、BUN、Cr、haptoglobun、Fe、総鉄結合能、不飽和鉄結合能、LDH isozime)。
C血清学的検査(CRPAASLO、RA、direct、およびindirect Coombsテスト、血清補体価、Paul-Bunnel反応、抗核抗体、抗DNA抗体、抗血小板抗体、HBs抗原抗体、また特定の感染症が疑われるときはその抗体価を調べる)。
D尿検査(蛋白、潜血反応、ウロビリノーゲン、沈渣、血色素尿)。
E胸部、腹部X-P。
F腹部エコー、CTスキャン、
G脾臓シンチグラム、肝臓シンチグラム、Gaシンチグラム。
H骨髄穿刺又は骨髄生検。
I溶血現象に関する検査。浸透圧抵抗、自己溶血試験、赤血球寿命、赤血球膜酵素の測定。
J細菌培養(血液、尿など)。
K食道、胃透視(varixの有無)。
L脾臓穿刺(出血が起きやすく、慎重に)。
診断の確定へ
@慢性骨髄性白血病:
a.慢性の経過をとる脾腫で巨大になることがある。
b.感染症を示す所見なしに末梢好中球数の増加を認める。Seg、Stab、Metamyelocyte等が増加しているが、一般的にはhiatus leukemicusは欠如している。血小板も増加している例も多い。
c.好中球NAP score、染色体分析(Ph1)、骨髄穿刺が鑑別に有効。
A真性多血症:
a.慢性の経過をとり、中等度の脾腫を呈することが多い。
b.赤血球数、Hb、Ht、白血球数、血小板数が増加しており、血液像はhiatusなく好中球系が増加。
c.骨髄像では有核細胞数が著増し、赤芽球系、顆粒球系の過形成を認める。
B骨髄線維腫:
a.骨髄における造血巣が障害を受けたため脾臓での代償的造血が亢進した病態である。中等度〜高度の貧血。血小板数減少を認めることが多い。血液像では数%〜数10%の幼弱な顆粒球系の細胞を認めることが多く、また有核赤血球も出現する。
b.骨髄穿刺では、dry tapまたは、有核細胞数の減少を認める。しばしば骨生検が必要となり、病理では線維の造生を認める。
C溶血性貧血:
a.球状赤血球症のように慢性のものでは、ほとんど症状がなく経過し、一般の健診や胆石発作などで発見されることがある。
b.急性の溶血性発作では、発熱、全身倦怠感、貧血症状の強いことが多い。
c.赤血球数、Hb、Ht等の減少、網状赤血球数増加、ビリルビン(主として間接型)LDHの上昇、ハプトグロブリンの低下を認める。
d.直接、間接Coombs試験、赤血球抵抗試験などを行い、溶血の原因を探索する。
e.他の自己免疫疾患の併発を調べる。
D壊死後性肝硬変:
a.門脈側副路の発達(caput medusae)、くも状血管腫、手掌紅斑などを認める。硬く、表面不平滑な肝臓を触知でき、非代償期には、腹水、黄疸、肝性昏睡なども発生する。
b.消化管透視で食道静脈瘤、腹腔鏡で肝表面に多数の結節を認める。肝生検で確定診断する。
c.血液生化学では、アルブミンの低下、グロブリン分画の増加、膠質反応高値、GOT、GPT、ビリルビンは、進行期、非代償期に増加する。HB抗原持続陽性例に発生することが多い。
E胆汁性肝硬変:
a.原発性のものは40歳代の女性に多く、しばしば掻痒感を訴える。肝臓は腫大し、表面は不平滑、脾腫はかなり高度になり得る。
b.腹腔鏡で、肝表面は、緑色〜暗緑色、顆粒状の凸凹を認める。
c.血液生化学ではビリルビン、アルカリフォスファターゼ、コレステロール値が増加。アルブミン値は低下する。
FBanti病:
a.若年より徐々に進行する脾腫、貧血を呈することが多く、しばしば脾腫は巨大となる。
b.肝機能検査はほとんど正常の場合が多い。
c.食道静脈瘤など、門脈圧の亢進を認める。
G感染症による脾腫:
a.マラリアやカラアザール病以外では、ほとんど巨大脾腫はない。一般的には柔らかく、軽度〜中等度の脾腫が起きる。
b.発熱に脾腫が伴う場合、感染症は鑑別すべき重要なものの一つである。しかし、白血病、急性の溶血性貧血等でも発熱する。脾腫を呈するので注意を要する。
c.発疹、筋肉痛、リンパ節痛、黄疸など、各種感染症に伴う症状に留意する。
鑑別すべき疾患
@感染症:
a.敗血症、伝染性単核症、チフス。
b.亜急性及び慢性:細菌性心内膜炎、結核、マラリア、梅毒、ヒストプラズマ。
A他の炎症性及び肉芽腫性疾患:慢性関節リウマチ、SLE、サルコイドーシスなど。
Bうっ滞性脾腫をきたす疾患:
a.肝内門脈圧亢進症:壊死後肝硬変、胆汁性肝硬変、肝線維症、ヘモクロマトーシス.
b.肝外門脈圧亢進症:門脈又は脾静脈血栓症、動静脈瘻、腫瘍などによる圧迫。
c.心臓病由来するもの:うっ血性心不全、拘束性心外膜炎。
C血液疾患:
a.溶血性疾患:球状赤血球症、自己免疫性溶血性貧血。
b.悪性疾患:急性白血性、慢性骨髄性及びリンパ性白血病、悪性リンパ腫、悪性細網腫、真性多血症。
c.その他:骨髄線維症、悪性貧血、鉄欠乏性貧血。
Dリポイド沈着症:Gaucher、Niemann-Pick、Tay-Sachs、Histiocytosis X、Hurler's syndrome.
E腫瘍性疾患:
a.良性:血管腫、リンパ管腫、線維腫など。
b.悪性:血管肉腫、リンパ管肉腫、線維肉腫。
Fその他:甲状腺機能亢進症、アミロイドーシス、ポルフィリア。
メディカル・ノート
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高度の弛緩熱、肝脾腫、高LDH血症を主たる所見とするが、リンパ節腫張なくまた末梢白血球像も正常の例を最近、2例経験した。幾度にもわたる細菌培養は全て陰性であり、血液系の悪性疾患を疑ったが、それを示唆する所見がなかった。骨髄穿刺を行い、丹念に骨髄像を見ると、ほぼ正常であるが、一部にerythrophagocytosisを示す細胞が存在した。剖検では、ほぼ全ての脾臓組織が悪性細胞に置き換わり、各種臓器の血管内に悪性細胞が充満しているのが発見された。腫瘤形成の傾向はなく、貪食像またリンパ系マーカー欠如の点よりmalignant reticulosisと診断した。稀な症例ではあるが、上記の症状を呈する患者に遭遇したときに思い出していただけたら有用であろう。
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