概論
狭心症とは広い意味では、狭心痛を有する症候群と考えられるが、今日では冠動脈の器質的あるいは機能的異常によって心筋の酸素需要と供給の不均衡が生じ、一過性の心筋虚血に陥り、狭心痛と心電図変化などを生じる虚血性心疾患(冠動脈硬化症)の一つの疾患単位としてとらえられている。冠危険因子を持つ50歳以上の男性に多く(男女比は8:2〜9:1)、閉経前の冠危険因子のない女性ではまれである。冠動脈硬化症以外の病因としては、川崎病、動脈炎、先天性冠動脈奇形があげられるが、これらは別の疾患単位と考えた方がよい。狭心症の診療には、病因(器質性、攣縮性)、病期(安定型、不安定型)、心電図変化(ST下降、ST上昇)の診断が治療上重要である。
臨床症状
@狭心痛とは:胸骨の上〜中部に感じる一過性の痛み、圧迫感、しめつけ感であり、左肩、左上腕内側、顎部に放散することがある。症状は数分以内に誘因がなくなればおさまり、また、ニトログリセリンの舌下が有効である。食後、朝、風に向かって歩くとき、寒いときにおこりやすく、同じ労作を続けるうちに消失する(walk-through現象)こともある。息切れ、呼吸困難、放散痛をangina equivalentとして狭心痛とみなすことがある。
A狭心痛の誘因:
a.労作(歩行以上の労作)で生じるもの労作狭心症で、比較的決まった労作(ジョギング、階段、坂道)で生じることが多く、冠動脈の器質的狭窄の関与している場合が多い。性交時、感情興奮時も同様に扱われる。
b.安静時に生じるもの安静狭心症と総称される。異型狭心症では、明け方の決まった時間に発作があるが、昼間はどんな労作をしても発作が生じない、アルコール多飲の翌朝起こるなどの特徴がある。
c.軽労作(排尿、排便、入浴、歯磨き、洗面など)の日常動作でも生じるもの 狭心症が不安定化したときに労作狭心症に伴ってみられたり、また異型狭心症でも安静狭心症に伴ってみられることが多い。
B狭心痛の頻度と起こり方(病期の判定)
a.安定労作狭心症 3週間〜1か月以上続く比較的一定の頻度で起こっている労作狭心症をさす。
b.新しく始まった労作狭心症 3週間〜1か月以内に始まった労作狭心症。
c.増悪型労作狭心症 狭心痛の頻度や持続時間が増加し、今までより軽い労作で誘発されるようになったもの。
d.新しく始まった安静狭心症 安静狭心症が新たに生じるようになり、15分以上持続したり、ニトログリセリンが効きにくくなったもの(b.〜d.を不安定狭心症という)。
e.安定安静狭心症 安静狭心症がある時期続くと、また消失する時期があり、これを繰り返している(異型狭心症に多い)。
C随伴症状:
a.呼吸困難、動悸は、狭心症に伴いやすい症状である。冷汗、顔面蒼白などは、より強い発作を示唆するものである。
b.失神発作は異型狭心症に伴いやすい。
一般検査所見
@非発作時12誘導心電図:半数以上の例で正常である。陳旧性心筋梗塞の所見、左室肥大、ST-T変化を確認する。最近生じてきたST-T変化は、狭心症発作の不安定化を示唆する所見である。
A胸部X線:大動脈弓の石灰化、冠動脈の石灰化がみられることがある。
B血液検査:完危険因子としてt-chol、中性脂肪、血糖、尿酸値を調べる。また狭心症の増悪因子としての貧血、甲状腺機能の検査が必要である。
特殊検査所見
@運動負荷心電図:切迫心筋梗塞の例を除いて行うことができる。安定労作狭心症では、比較的再現性よくST下降と狭心痛が誘発される(マスター2階段法は負荷量が少なく偽陰性となることがある)。狭心痛を伴わないST下降は、診断的価値が低下する。異型狭心症では、自然発作の多いときにはST上昇が誘発されることもあるが、早朝の負荷だけで発作が起こったり、ST下降がみられたり、再現性に乏しい。本法の冠動脈硬化症診断の感受性は50〜85%、特異性は90%程度とされている。
Aホルター心電図:携帯型24時間心電図記録にて、狭心痛発作時の心電図を記録する。特に夜間だけに発作のある異型狭心症のST上昇発作の確認に有用である。本法により、無自覚性のST偏位が多数あることがわかるようになり無症候性心筋虚血として最近注目されている。
B過呼吸試験、寒冷昇圧試験:異型狭心症発作の誘発のために行う。早朝に行ったり、アルコールを飲んだ翌朝に行うと陽性率が高くなる。
C201Tl負荷心筋シンチグラム:運動負荷試験にて狭心痛やST偏位のみられたとき201TIを静注して負荷後の撮像をし、4時間後の再分布像と比較して、一過性潅流欠損がみられたら心筋虚血ありと判定する。本法は運動負荷心電図法より感受性の高い検査といわれ、侵襲的検査を行う前にやっておくべき検査である。
D冠動脈造影検査:冠動脈の解剖学的、機能的な把握により狭心症の病因が明らかとなる。硝酸薬投与下の冠動脈造影にて主要冠動脈枝の径の70〜75%以上の狭窄を有意狭窄と判定する。安定労作狭心症では有意狭窄を持つものがほとんどである。不安定狭心症では10〜20%の例で有意狭窄が認められないことがある。不安定狭心症の安静狭心症型では血栓がみられることも多い。異型狭心症では半数以上の例で有意狭窄がない。エルビノゴン静注(0.05mg〜0.4mg)にて冠攣縮が誘発され、完全閉塞になると心電図上ST上昇が記録される。不完全閉塞あるいは完全閉塞でも、側副血行があるときはST下降が記録される。これらを総称して冠攣縮性狭心症ということがある。
診断
表1 CCSによる狭心症重症度分類
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Class T:日常の労作、例えば歩行、階段上昇では発作を起こさない。仕事にしろ、レク リエーションにしろ、活動が激しいか、急かまたは長びいたときには発作を生 じる。
Class U:日常の生活はわずかながら制限される。急ぎ足の歩行または階段上昇、坂道、 食後、寒冷または強風下、精神緊張下または覚醒2時間以内の歩行または階段 上昇により発作が起こる。また、2ブロック(100m)を越える平地歩行および 1階分を越える階段上昇によっても発作が起こる。
Class V:日常の生活は著しく制限される。普通の速さ、状態での1〜2ブロックの平地 歩行および1回分の階段上昇により発作を起こす。
Class W:いかなる動作も苦痛なしにはできない。安静時に狭心症状をみることがある 。
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表2 狭心症分類(1975年AHA)
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@狭心症(安定労作狭心症)。
A不安定狭心症:以下の症状が3週間以内に始まり、1週間以内にも胸痛発作の認めるも の。
a.新しく始まった労作狭心症。
b.変化型(労作狭心症のパターンの変化)。
c.新しく始まった安静狭心症
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表3 ISFC/WHOによる狭心症分類(1979)
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@労作狭心症:
a.新鮮労作狭心症(1か月以内)。
b.安定労作狭心症(1か月以上)。
c.悪化型労作狭心症。
A安静狭心症。
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@狭心症の発作の誘因から、労作狭心症、安静狭心症、労作兼安静狭心症に分類し、日常動作を含めた発作の誘因を明らかにする。胸心痛の重症度分類として、カナダ心血管協会(CCS)のものを示す(表1)。
A狭心症の頻度、起こり方から狭心症の病期(安定、不安定)の判定をする(表2、3)。
B心電図所見による狭心症診断は、次のようになる。
a.日発作時12誘導心電図所見:ST加工、陰性T、異常Q波、左室肥大などの有無。
b.発作時12誘導心電図所見:ST降下、ST上昇(非梗塞部、梗塞部)、陰性T波の偽正常化、U波の陰転。
c.運動負荷心電図所見:負荷方法(マスター、トレッドミル、エルゴメーター)、負荷時間、負荷終了時の自覚症状、最大負荷時のST偏位(ST下降、上昇、U波の陰転)、心拍数、血圧。
d.ホルター心電図所見:ST下降、ST上昇の有無、ST偏位の回数、好発時間帯、自覚症状と誘因。
C冠動脈造影検査による診断は、有意器質的狭窄の有無と、程度(100%、99%、90%、75%、50%以下)。側副血行の有無。エルゴノビン負荷による攣縮誘発の有無。左室の壁運動(正常、hypokinesis,akinesis,dyskinesis,aneurysmal)、左室拡張末期容量・圧、左室駆出率。
D異型狭心症の診断は、主に安静狭心症であり、発作時にST上昇がみられること。発作は周期的で、毎日同じ時刻にみられることが多い。発作時には重篤な不整脈を伴いやすい。冠動脈の攣縮が誘発されれば診断は確実である。
E狭心症と紛らわしい不明確な病態は、以下のとおりである。
a.Syndrome X:典型的労作狭心症で、発作時ST下降がみられるが、冠動脈は正常であり、かつ攣縮も誘発されないもの。
b.胸痛症候群:狭心痛があるも、心電図の変化や冠動脈異常の見られないもの。
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