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脱髄疾患

 飯島 節

概論

@中枢神経系の軸索は髄鞘に被覆され、集合して白質を形成している。この髄小鞘が何らかの原因により傷害され脱落する物を、脱髄疾患と呼ぶ。
A多発性硬化症MS)は脱髄疾患の代表で、中枢神経系のすべての髄鞘(視神経を含む)が侵され得る。病巣が複数の部位に存在すること(空間的多発性)、緩解と増悪を繰り返すこと(時間的多発性)が特徴である。
BMSの病因は不明である中枢神経髄鞘またはオリゴデンドログリアに対する自己免疫説が有力である。
CMSは若年成人に多く、わが国では80%以上が15〜50歳で発病し、過半数が20〜30歳台に集中している。
D急性散在性脳脊髄炎ADEM)は、ウィルス感染症やワクチン接種後4〜21日目に、複数の病巣による神経症候を急性にきたす。MSと異なり単相性の経過をとる。中枢神経内の広い範囲に炎症細胞浸潤を伴った散在性の小脱髄巣を生ずる。

臨床症状

@MSの臨床症状
 a)視力障害:球後視神経炎による視力障害で初発することが最も多い。数時間から数日の経過で、両眼または片眼の視力低下をきたす。中心暗点を有し、しばしば眼球運動による眼痛を伴う。
 b)複視:内側縦束の病変によるもの(MLF症候群)が特徴的である。MLF症候群は血管障害による場合は一側性、MSのときは両側性のことが多い。
 c)運動障害:片麻痺、対麻痺、四肢麻痺など多彩である。深部腱反射の亢進やバビンスキー反射などの病的反射の出現をみる。自発運動や外的刺激により有通性強直性痙攣painful topic seizure)が誘発されることがある。錐体外路症候は稀である。
 d)小脳失調:断綴性言語・企画振戦・眼振はかつてCharcotのtriasと呼ばれた。失調による歩行困難が問題となる。
 e)感覚障害:さまざまの領域あるいはレベルの感覚障害が起こり得る。温浴による症状の増悪が特徴とされている。40歳以下で発症した三叉神経痛、50歳以下で認められたレールミッテ徴候(Lhermittes sign: 頚を前屈すると背中を電撃痛が走る)はMSによる可能性が高い。
 f)膀胱直腸障害・性機能障害も多い。

AAA HREF="imd00227.html">ADEMの臨床症状
 a)急性に発熱頭痛意識障害痙攣などで発症する。
 b)髄膜刺激症状、瞳孔異常、眼球運動障害、四肢麻痺、片麻痺や対麻痺、小脳症状、膀胱直腸障害など複数の病巣による症状をきたす。一般に深部腱反射は消失し、Babinski反射が出現する。

一般検査所見

 MSでは一般検査所見には大きな異常は認められない。ADEMでは経度の白血球増多を認める。

特殊検査所見(表1)

  表1 特殊検査所見
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脳脊髄液 |MSではIgG増加(IgG index 1) 上昇、IgG産生率2)増加)、origoclonal
     |bando・myelin basic protein (MBP)を見る。
     |ADEMでは細胞数の経度の増加を認める。
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X線CT  |X線CTでは低吸収域や脳萎縮を認めることがあるが、異常所見を
MRI   |発見できないことの方が多い。急性増悪期には造影剤による増強効果を認
     |めることがある。MRIは脱髄巣の検出にはX線CTの数倍の能力を有し、し
     |かも脳幹や脊髄の描出も可能である。
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誘発電位 |聴覚、体性感覚、視覚などの刺激による誘発電位により、脳幹や脊髄の潜
(ABR、SEP|在病巣の検出ができる。
VEP)   |
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眼底検査 |後期には視神経萎縮(乳頭耳側蒼白)を示す。
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膀胱機能 | 種々のタイプの神経因性膀胱(neurogenic bladder)をきたす。
検査   |
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1)IgG Index = (CSF IgG/serum IgG)/(CSF albumin/serum albumin)
2)intra-BBB IgG synthesis rate (mg/day) = ((IgG csf -(IgG serum/369)) -(Alb serum -(Alb serum/230))) *((IgG serum/Alb serum)*0.43) *5
(Tourtellotte WW et al,: Ann NY Acad Sci 436:52, 1984)

 表1の諸検査のうちで現在最も有用と考えられるのは、髄液IgG + oligoclonal band および MRIである。

診断

 1)MS の診断には厚生省研究班による診断基準 (表2) および米国の「MS 診断基準に関するワーク ショップ」 による診断基準 (表3)を参考にする。 時間的空間的多発性を明らかにするために、ある程度の観察期間を必要とすることが多い。MS と鑑別すべき疾患には脳血管障害、脊髄血管腫、Behcet病、脳脊髄腫瘍、頚椎症、運動ニューロン疾患脊髄小脳変性症SLE、神経梅毒などがある。
 2)過去に神経疾患の既往がなく、発熱頭痛意識障害、髄液の細胞増多などを伴って急性に発症したものは ADEM と診断する。将来、MS に移行するか否かは予見できない。ADEM と鑑別すべき疾患にはウイルス性脳炎、脳静脈洞血栓症ライ症候群などがある。

  表2 多発性硬化症MS)の診断基準
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1)MS
 a)発病年齢 15〜50歳 ( 若年成人に多い )
 b)中枢神経に多発性の病巣に基づく症状がある (脳、脊髄、視神経などに2箇所以上の病巣を有する )。
 c)症状の緩解や再発がある ( 時間的多発性という )。
 d)他の疾患を除外できる ( 腫瘍、梅毒、脳血管性障害、頚椎症、血管腫、SMON、neuroーBehcet 病、小脳変性症など )。
2)視神経脊髄炎 ( Devic病 )
 急性両眼視力障害(視神経炎)と横断性脊髄炎が相次いで起こる(数週間以内 )。本症はMSの一部である。
3)MSの疑い
 a〜dの条件のうちいずれかを欠くもの。
ヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲ
「 参考 」
A. 以下のような場合にMSを考える。
 1)視神経炎に他の神経症状(反射異常、麻痺、しびれ、運動失調など)を示すもの。
 2) 脊髄症状に眼筋麻酔や眼振を伴うもの。
 3) 小脳症状 ( 運動失調、眼振など ) と脊髄症状 ( 下半身麻痺など)、脳症状 ( 片麻痺など )が次々と起こるもの。
 4) 脊髄炎の反復するもの
 5) 視神経炎の反復するもの
B. 急性散在性脳脊髄炎、急性脊髄炎も将来MSになる可能性がある。
C. 症状の左右差: SMONはほとんど左右対称的に起こるが、MSは左右非対称を示すことが多い。
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  (厚生省特定疾患・多発性硬化症調査研究班、班長黒岩義五郎、1972)

  表3 New diagnostic criteria for multiple sclerosis(Poser CM et al: Ann Neurol 13:227、1983)
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    Category       | Attacks  Clinical   Paraclinical  CSF
              |      Evidence   Evidence   OB/IgG
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A.Clinically definite   |
   CDMA HREF="imd00227.html">MS A1        |  2     2
   CDMA HREF="imd00227.html">MS A2        |  2     1  and     1
B.Laboratory supported definite
   LSDMA HREF="imd00227.html">MS B1       |  2     1  or     1     +
   LSDMA HREF="imd00227.html">MS B2       |  1     2             +
   LSDMA HREF="imd00227.html">MS B3       |  1     1  and     1     +
              |
C.Clinically probable   |
   CPMS C1        |  2     1
   CPMS C2        |  1     2
   CPMS C3        |  1     1  and     1
              |
D.Laboratory supported probable
   LSPMS D1       |  2                  +
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   CSF OB/IgG=oligoclonal bands or incleased IgG
   Paraclinical Evidence : the hot bath test、evoked response
     studies、CTscan、MRI、urological studies etc.

メディカル・ノート
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 MSの特殊型または類縁疾患として以下のものがあげられる。
 1)neuromyelitis opticaDevic) : 両側性の視神経炎と横断性脊髄炎よりなる。本邦に多いとされている。
 2)concentoric sclerosisBalo) : 病理学上の概念で、帯状の脱髄巣が同心円上に積み重なり大きな病巣を形づくる。臨床的には急性発症で予後が悪いとされている。
 3)diffuse sclerosisSchilder) : 後頭葉、側頭葉白質を中心にび漫性の大きな脱髄巣をつくる。ややあいまいな概念でadrenoleukodystrophy などを誤診している例が多い。
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