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真菌症

 木村幹男

概論
 自然界に知られている真菌の種類は10万以上にも及ぶが,ヒトに病気を起こすのは100種類以下である。構造上,細菌は原核微生物であるのに対して,真菌は真核微生物であり,したがって核孔を有する二重の核膜に被われた核を有する。核内には数本の染色体があり,細胞質にはミトコンドリア,小胞体などがあるB細胞壁は細菌の場合よりも複雑で強固であり,キチンやステロールを含むことが細菌とは異なる。
 ヒトに病原性を有する真菌の多くは二相性であり,すなわち環境条件に応じて酵母形と菌糸形の両者を取り得る。一部は二相性でないものもある。酵母形は卵円形の単細胞の状態であり,出芽により分裂増殖する。菌糸形は円筒形の細胞が縦に連なったり,あるいは多核性の1個の細胞が長く伸びて菌糸と呼ばれる糸状の構造が枝分れした状態を示すものである。
 国内ではカンジダ,クリプトコッカス,アスペルギルスなどが問題となることが多いが,多くは抗癌剤,免疫抑制剤,ステロイド剤,広域抗生剤などの投与を受けている患者に発生し,日和見感染としての性格を有している。正常人ではこれら真菌に対して細胞性免疫が十分に働き,感染防御に役立っているが,上記患者ではそれが低下しているために感染を許すことになる。カンジダは正常人の口腔咽頭,消化管,膣などに常在するし,クリプトコッカスはハトやネズミなどの糞,土の中などに多く含まれる他,室内のごとき湿気の多い部位に多く,空気に運ばれて日常接触している。アスペルギルスも昔から鳥の糞や土の中などに見つかっているが,最近では病院内のエアコンダクト,フィルターなどに多く見つかる。
 形態上はカンジダは酵母形と菌糸形,クリプトコッカスは酵母形,アルペルギルスは菌糸形を示す。正常人に対する感染能力は低いが,感染すると外毒素,内毒素,プロテアーゼなどの組織破壊性物質を放出する。病変を形成するにはこれらの物質以外に生体の反応が重要であり,多形核白血球を主体とした化膿性反応,単核球を主体とした肉芽腫反応に大別される。
 アメリカ大陸などではヒストプラスマ症コクシジオイデス症ブラストミセス症パラコクシジオイデス症などが地方病的に存在する。ヒストプラスマはハトやコウモリの糞中から胞子の形で伝播されるし,コクシジオイデスは砂漠地帯に発育している。交通機関が発達して海外との交流が盛んになった現在,それらの地域で感染した患者が帰国してから発病する例も増えてくると思われる。
 真菌症の治療には古くからポリエン系のアンホテリシンBが使われてきたが,その後フルシトシンや,イミダゾール系のケトコナゾール,ミコナゾールなども開発された。しかし現在でもアンホテリシンBの重要性は大である。これは用量依存的な腎毒性などの副作用が強い薬剤であり,したがって真菌症の診断については確実性が要求される。
 真菌症は病変が粘膜,皮膚に限局する浅在性真菌症と,内蔵や皮下組織,筋肉,骨などに浸潤する深在性真菌症とに大別される。

臨床症状

 @粘膜:カンジダで鵞口瘡(口腔粘膜に出現する灰白色の斑),口角糜爛,黒毛舌,膣カンジダ症。ヒストプラスマ,パラコクシジオイデスなどで鼻腔,口腔,咽頭などの潰瘍。
 A皮膚:カンジダで乳児寄生菌性紅班(陰股部などの間擦部に生ずる膿疱性小丘疹),間擦疹型カンジダ症糖尿病患者の間擦部位に生ずる掻痒性紅斑),慢性粘膜皮膚カンジダ症(小児に発症し,慢性に経過する頑癬様皮疹)。皮膚クリプトコッカス症(全身性病変の一部として生ずる蜂窩織炎),コクシジオイデスによる結節性紅斑,ブラストミセスによる粟粒性膿疱を伴う皮膚病変。パラコクシジオイデスで潰瘍化する丘疹。
 B呼吸器:カンジダ,クリプトコッカス,アスペルギルス三者共に肺炎を起こし得るので咳嗽,喀痰,血痰などがある。アスペルギルスではアスペルギローマの形を取ることも,肺炎の形を取ることもある。アレルギー性気管支肺アスペルギルス症は,気道粘膜にコロニー化したアスペルギルスに対するアレルギー反応から,喘息発作,肺浸潤を生ずる。ヒストプラスマ,コクシジオイデス,ブラストミセスなどでも咳嗽,胸痛呼吸困難などがある。
 C神経:クリプトコッカス髄膜炎による髄膜刺激症状,その他種々の神経症状。カンジダ髄膜炎も乳幼児で増えている。コクシジオイデスでも髄膜刺激症状あり。
 D消化器:カンジダ食道炎で疼痛、嚥下困難、吐下血など。子供のヒストプラスマ症下痢
 E泌尿器:カンジダによる腎盂炎,膀胱炎症状。ブラストミセスで副睾丸炎、前立腺炎の症状。
 F敗血症、菌血症:中心静脈カテーテル留置患者にカンジダ血症が増えている。
 Gリンパ節:ヒストプラスマによるリンパ節腫張、パラコクシジオイデスでリンパ節腫張から潰瘍、瘻孔形成。
 H関節:コクシジオイデスで関節痛、膝関節や足関節などの腫張。

一般検査所見

 @血算:日和見感染の場合、基盤として白血球減少が多く、白血球増多はあまりない。アスペルギローマ、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症で好酸球増多。ヒストプラスマ症貧血、白血球減少、ブラストミセス症で貧血、白血球増多。パラコクシジオイデス症で白血球増多、好中球増多、左方移動、好酸球増多。
 A血沈:日和見感染では血沈の変動が有意でない事が多い。ブラストミセス症パラコクシジオイデス症で亢進。
 B胸部レ線:カンジダ症では特徴的な像はない。アスペルギローマは肺結核、肺膿瘍などの遺残空洞の中に菌糸が増殖するため球状塊(fungus ball)を作る。アスペルギルス肺炎に特徴的な像はないが、慢性化すると限局化する傾向。クリプトコッカス肺炎は限局性で腫瘤状陰影を呈すること多し。コクシジオイデスでは間質性肺炎や空洞形成。ブラストミセス症では縦隔より拡がる大きな陰影。
 C髄液:クリプトコッカス髄膜炎で圧上昇、細胞数(特にリンパ球)増多、蛋白増量、糖低下、遠心沈渣を墨汁(インジアナインク)で染色して、厚い莢膜で被われた酵母細胞を証明すれば、診断に至る。

特殊検査所見

真菌培養、同定についての詳細は他章に譲るが、真菌のほとんどはサブロー培地で増殖する。これはデキストロース、ペプトン、カゼインの膵分解物などを含む。

皮内反応

 @カンジダ:正常人における皮内反応は年齢とともに陽性率が上昇し、50歳以上の人では80%にも達する。したがって診断上の意義はすくない。
 Aクリプトコッカス:抗原としてcryptococcinがあるが、これによる皮内反応では患者の半数以上が陽性となる。ただし他の真菌症でも陽性となることがあり、注意を要する
 Bアスペルギルス:アスペルギローマ、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症で陽性に出やすい。その他の深在性アスペルギルス症では陰性のことが多い。
 Cヒストプラスマ:histoplasminが用いられ、陽性率は高いが、他の真菌症でも陽性に出ることあり。
 Dコクシジオイデス:coccidioidin,spherulinなどがあるが、後者の方が高感度であるといわれている。
 Eブラストミセス:blastmycinが用いられるが、あまり信用性はないといわれている。 Fパラコクシジオイデス:50%程度の陽性率。

血清反応

 @カンジダ:細胞壁マンナンや細胞質蛋白を用いた免疫拡散法、対向免疫電気泳動法など。蛍光抗体法で免疫グロブリン別抗体測定も可能。ただし深在性カンジダ症では陽性率低い。
 Aクリプトコッカス:凝集反応、補体結合反応、蛍光抗体法などが行われているが、抗体は検出されないことが多い。他の真菌との交叉反応性もあり、診断的意義は低い。
 Bアスペルギルス:皮内反応用の抗原を用いて免疫拡散法、補体結合反応、ラテックス凝集反応が行われるが、皮内反応と同様、アスペルギローマ、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症で陽性率は高い。
 Cヒストプラスマ:histoplasminその他の抗原を用いて補体結合反応、免疫拡散法、ラテックス凝集反応が行われる。補体結合反応は回復期で下降するため、急性期の診断に有用である。ラテックス凝集反応は早期に抗体検出が可能である。
 Dコクシジオイデス:免疫拡散法もあるが、補体結合反応が有用である(急性期にのみ上昇がみられるので)。ラテックス凝集反応もある。
 Eブラストミセス:blastmycinとは異なる。酵母細胞より得られた抗原を用いて免疫拡散法を行う。陽性率80%とたかい。
 Fパラコクシジオイデス:酵母細胞より抽出した多糖体抗原を用いて補体結合反応を行うが、80%以上の陽性率を示す。免疫拡散法も良い。

抗原検出

 @カンジダ:蛋白抗原を対向免疫電気泳動、ラテックス凝集法(市販)で検出。血中マンナン抗原のEIA法、ガスクロマトグラフィーによる検出。
 Aクリプトコッカス:ラテックス凝集法(市販)による夾膜多糖体の検出は、検出率が高く、診断および治療経過を追うのに適している。
 Bアスペルギルス:血中抗原の検出が試みられているが、一部の研究室で成功している程度であり、一般化はしていない。

診断

 @カンジダ症:皮膚、粘膜、口腔、肺、敗血症、心内膜、髄膜などの病変。常在菌であるので、汚染を除外できる状況下で病巣部より得られた検体あるいは生検材料からの菌検出(H-E染色、培養)。抗原検出は、抗原価があまり高くはでないが有用であることも。皮内反応、抗体測定の解釈には注意が必要。
 Aクリプトコッカス症:肺、髄膜、皮膚、骨関節、リンパ節、腎などの病変、培養以外に検体からの直接塗抹は簡単でしかも有用。髄液、血中の抗原検出は鋭敏で特異性も高く有用。
 Bアスペルギルス症:肺、皮膚、外耳、副鼻腔、眼などの病変、肺アスペルギローマでは胸レ線、喀痰培養、沈降抗体の証明。その他の深在性アスペルギルス症では診断が容易でない。例えば全身性アスペルギルス症で肺病変があっても、喀痰からは培養されにくい。
 Cヒストプラスマ症:肺、鼻腔、口腔咽頭、肺、脾、リンパ節などの病変。皮内反応や抗体検査。全身性ヒストプラスマ症の場合、口腔内病変、リンパ節、骨髄、喀痰などの培養は陽性率が高い(60〜90%)。
 Dコクシジオイデス症:肺、関節、皮膚、髄膜などの病変。皮内反応、抗体測定。喀痰やその他浸出液を10%KOH処理した後、内生胞子を放出する球体状をみれば確定。髄液、尿、骨髄などから培養されることあり。
 Eブラストミセス症:肺、皮膚、骨(肋骨や椎骨)、副睾丸、前立腺などの病変、皮内反応よりも、免疫拡散法による抗体測定の方がよい。喀痰、前立腺液などを10%KOH処理した後検鏡し、特徴的像を確認。培養は可能であるが1ヶ月ほどかかる。
 Fパラコクシジオイデス症:口腔粘膜、口周囲の皮膚、局所リンパ節、肺、肝、脾などの病変。喀痰その他の検体を10%KOH処理して特徴的な形態。血液、尿、骨髄、髄液あるいは肝、リンパ節などの生検材料から培養が可能。

管理上必要な検査

種々あり得るが@血算、A血液像、B血沈、C胸レ線、D髄液、E真菌培養、F抗体価、G抗原価などが基本となる。

メディカル・ノート
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 日和見感染では抗原の検出が偉力を発揮する。上述のカンジダ、クリプトコッカス抗原検出系は市販されており、いずれもラテックス凝集法である。カンジダのマンナン抗原を検出するのに、二抗体サンドウィッチEIA法が有効との報告がある。抗体でコーティングしたマイクロタイタープレートに検体を反応させ、その後酵素標識抗体、さらに酵素基質を反応させて発色させる。検体に前処理をして抗原抗体複合物を解離させておく。この方法では正常値0.5ng/ml以下で、2ng/ml以上では感染がかなり疑わしい。アスペルギルスでもガラクトマンナンを同様な方法で検出する試みがある。これらはいずれも研究室レベルであり、早急に一般化されることが望まれる。
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