概説
体重減少は、比較的頻度の多い訴えであり、さまざまな病態の結果として生じ得る。短期的体重減少は、浮腫や胸水、腹水の消失に伴うものが多いが、長期的体重減少は、生体のエネルギーバランスが負になってくることを意味する。多くの場合は摂取エネルギーの低下、すなわち摂食量低下、吸収低下もしくは有効に利用できない場合であるが、逆に総必要エネルギー量(=基礎代謝率+活動によるエネルギー消費量+食物の特異動的作用)が何らかの病態で増加した場合、もしくはこれら双方の場合がある(いずれにせよ、体重が1kg減少するためには、7,000Calが負バランスになる必要がある)。したがって鑑別すべき疾患は、消化器疾患、内分泌疾患、悪性腫瘍から精神神経疾患まで多岐にわたるため、病歴、理学的所見からその手がかりをみつけて、必要な検索計画を立てなくてはならない。
病歴からのアクセス
@年齢と性別:高齢者では常に悪性腫瘍を念頭に置く。
A体重減少の程度と経過:どのくらいの期間か(週、月、年単位か)、どの程度の体重減少か(具体的な数字のみでなく、衣服のサイズなどにも注意する)。
B摂食量と便通:実際の摂食量とその内容、間隔、また嘔吐の有無、長期の下痢、軟便の有無をチェックする。糖尿病と甲状腺機能亢進症では、摂食量が増加しているにもかかわらず、体重減少がみられる。
C家族歴:糖尿病、悪性腫瘍などの素因の有無。
D誘因:心因反応を惹き起こすような出来事の有無。栄養失調、アルコール中毒、薬物中毒などの素因となる社会的背景。
E随伴症状:鑑別の対象となるすべての疾患の随伴症状の有無。特に消化器症状。
F薬剤:下剤の乱用、その他食欲低下をきたし得る薬剤、アルコール等。
主要症候からのアクセス
@消化器症状の有無:エネルギー摂取の低下を惹き起こす消化器疾患は、口腔から咽頭、食道、胃腸、肝・胆・膵系など全消化器にわたり、障害も慢性炎症から潰瘍、悪性腫瘍、消化不良、吸収不全症候群などさまざまである。したがって可能性が否定されるまでには常に念頭に置く。
A発熱:体温が1度上昇すると基礎代謝率は13%増加する。したがって経口摂取の低下があると長期の発熱ではそれだけでも体重減少が起こり得る。また一方で、発熱はそのパターンとともに原因疾患すなわち感染症、膠原病、悪性腫瘍などを示唆する。
B浮腫、腹水、胸水の有無:Third spaceへの水の貯留がある場合、その増減が体重の増減を惹き起こす。また逆にその存在から、肝硬変、結核、悪性腫瘍等の疾患が疑われる。
C内分泌代謝疾患、その他の全身疾患を示唆する所見の有無:糖尿病(口渇、多飲、多尿)AAA HREF="imd00196.html">Addison病(色素沈着)、甲状腺機能亢進症(甲状腺腫、動悸、眼球突出)、褐色細胞腫(発作的高血圧)などの所見をチェックする。また結核等の慢性感染症や、うっ血性心不全、肝硬変、血液疾患、膠原病などを示唆する所見の有無。
D精神症状の有無:失恋などによる心因反応では、よく食欲低下がみられる。その他うつ病による食欲低下、精神分裂病による拒食、慢性のアルコールや薬物中毒による摂食量減少も体重減少の原因となる。またこれら以外に特に器質的疾患がなくて、長期の摂食量低下がある若い女性の場合は、神経性食欲不振症を念頭に置く。
臨床検査からのアクセス
<体重減少の鑑別に必要な主要検査>
(ルーチン検査以外は可能性の高いものから行う)
@血算(赤血球数、血色素量、ヘマトクリット値、白血球数、分画、網赤血球数、血小板数)。
A血沈。
B血液生化学(総蛋白、アルブミン、GOT、GPTAALP、LDH、Bil、ChE、総コレステロール、中性脂肪、BUN、クレアチニン、Na、K、Cl、Ca、Pなど)。
C血糖(空腹時、食後)、ブドウ糖負荷試験。
D血清学的検査(CRP、抗核抗体、免疫グロブリンなど)。
E尿検査(蛋白、潜血、糖など)。
F便検査(潜血、虫卵、脂肪便)。
G胸部X線。
H培養(抗酸菌も)(喀痰、尿、便、胃液)。
Iツベルクリン反応。
J消化管造影もしくは内視鏡。
K腹部エコーもしくはCT。
Lホルモン検査(特に甲状腺)。
M腫瘍マーカー(CEA、αFP、CA19-9など)。
N生検(骨髄、肝など)。
診断の確定へ
@慢性胃腸炎、潰瘍等の消化管疾患:(a)病歴で消化器症状を細かくチェックする。(b)便潜血のチェック。c消化管造影、内視鏡により確診。
A吸収不良症候群:(a)下痢や脂肪便等を確認。(b)成人では原発性のものより、術後障害など二次性のものが多い。(c)各栄養素欠乏による症状がみられる。(d)消化吸収試験や生検により確診をつける。
B悪性腫瘍:(a)特に高齢者では常に念頭に置き、検索を進める。(b)消化器以外、血液等の悪性腫瘍も念頭に置く。
C結核:(a)肺以外に尿路その他の結核もあり得る。(b)発熱、血沈亢進等の炎症所見が持続する。(c)喀痰、胃液、尿などで結核菌を証明する。骨髄、肝などの生検により乾酪壊死が証明されることもある。
D糖尿病:(a)口渇、多飲多尿などの症状。(b)摂食量は多いにもかかわらず体重減少が起こる。(c)空腹時および食後血糖をまずチェックし、その後必要あればブドウ糖負荷試験を行う。
E甲状腺機能亢進症:(a)甲状腺腫、動悸、眼球突出が三大徴候であり、約60%に体重減少が見られる。(b)摂食量は多いにも かかわらず体重減少が見られる。(c)T3、T4(free)の上昇を確認。
FAddison病:(a)全身倦怠感、消化器症状など曖昧な症状しか示さない場合もあるが、 全身の色素沈着は典型的、約50%で体重減少を示す。(b)尿中17OHCS低下や血漿コルチゾールの低下が見られる。確診にはACTH負荷試験に反応しないことを証明する。
G褐色細胞腫:(a)頭痛、高血圧(約半数は発作的)が見られる。体重減少は約10%にみられる。(b)基礎代謝率亢進、高血糖が見られる。(c)尿中メタネフリンもしくはfreeカテコールアミンをチェックする。(d)MultipleEndocrineNeoplasiaの可能性も念頭におく。
H下垂体機能低下症:(a)中年以降に多い。(b)乳房の萎縮、陰毛の脱落などがみられ、体重減少は約10%にみられる。(c)間脳下垂体機能検査で確診する。
I心因反応:(a)失恋、受験の失敗、身内の死などの心因が存在する。(b)他に身体的異常がない。(c)数週間程度で回復する。
Jうつ病:(a)食飲低下、不眠、便秘などの身体的症状のみ訴える場合がある。(仮面うつ病)。ただし、よく聞くと、ゆううつ気分、意欲低下などがみられる。(b)朝調子が悪く、夕方良くなるという日内変動を示す。
K精神分裂病:(a)妄想に基ずく拒食がみられる。他の分裂病の症状。(a)他に身体的異常がみられない。
L神経性食欲不振症:(a)主として若い女性にみられ、他に原因なく摂食量低下し、極度のやせが長期に続く。食行動の異常がしばしばみられる。(b)無月経となるが、第二次性徴は比較的良く保たれている。(c)やせている割に活動的であり、病職に乏しい。
鑑別すべき疾患
@消化管疾患、A悪性腫瘍、B結核、C糖尿病、D甲状腺機能亢進症、EAddison病、F褐色細胞腫、G下垂体機能低下症、H肝炎、肝硬変、I心因反応Jうつ病、K精神分裂病、L神経性食欲不振症、Mうっ血性心不全、N膠原病、O尿毒症、P薬剤、Qアルコール中毒。
メディカル・ノート
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人を半飢餓状態にすると、どのような成分が失われて体重減少が起こるのであろうか。24日間1,000Kcalにした実験では、最初の3日間では喪失した成分は70%が水分である。その後主として脂肪が失われるようになり、最終的には85%を脂肪が占める。別の研究では肥満者の方が非肥満者よりも脂肪が使われる率が高いことが知られている。また経過に伴って、基礎代謝率と日常活動が低下し、エネルギー消費量がおさえられる。
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