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運動障害

 野手とし子

概論
 ヒトの随意運動は、錐体外路系、小脳系、末梢神経系、神経筋接合部、骨格筋の総合的な働きによって円滑に遂行されるもので、これらの運動系野どこで障害されても運動障害が起こるため、運動障害をきたす疾患は多岐にわたる。しかし、病歴と神経学的所見のみでも、鑑別すべき疾患をかなり絞ることができるため、診断をすすめる上で、病歴と神経学的所見は重要である。

病歴からのアクセス
 @年齢・性別。
 A発症年齢・初発症状。
 B発症様式:a.突発的(時間がかかる)、b.急性(何日か判る)、c.慢性(はっきりとした年月は不明)。
 C発症誘因、前駆症状、随伴症状の有無。
 D経過:a.改善(急速または徐々)、b.固定、c.悪化(急速、階段状、徐々)、d.寛解と憎悪、e.発作性または周期性、f.一過性、g.日内変動等。
 E遺伝歴の有無。
 F既往歴、合併症、治療歴:高血圧糖尿病、心疾患、肝疾患、腎疾患、内分泌機能異常、血液疾患、悪性腫瘍、結核、梅毒、髄膜炎脳炎てんかん、外傷、周産期異常、薬物等。
 G社会歴、職業(有機溶剤、水銀、鉛、農薬等の取り扱い)、飲酒、喫煙、教育制度。
主要症候からのアクセス

 @運動麻痺:まず、上位運動ニューロン障害か下位運動ニューロン障害かを鑑別する。筋トーマス亢進、spasticity、深部反射亢進、病的反射陽性、筋萎縮欠如(廃用筋萎縮を認めることはある)、fasciculation 欠如を認める場合は上位運動ニューロン障害、筋トーヌス低下、flaccidity,深部反射減弱または消失、病的反射陰性、著明な筋萎縮、fasciculation 出現を認める場合は下位運動ニューロンの障害である。上位運動ニューロン障害では、孤立した筋のみが侵されることはなく、群筋として広汎に侵され、個々の分離運動が不可能となり、共同運動(上肢全体の屈曲または伸展、下肢全体の屈曲または伸展)としてみられるのに対し、下位運動ニューロン障害では、孤立した筋のみが侵されることも参考となる。著明な筋萎縮を認める場合、神経原性か筋原性かを鑑別する。四肢遠位筋群が優位に侵され、fasciculationも感覚障害も認めない場合は筋原性を考える。しかし、例外もあるので注意を要する。(Wohlfart-Kugelberg-Welander病、遠位型ミオパチー等)。麻痺の種類(片麻痺、対麻痺等)より、ある程度、病変部位を推定できることもあるので、診断上、参考となる。
 片麻痺:最も多くみられるのは、内包付近の障害である。一側の脳神経麻痺と反対側の片麻痺(交代性片麻痺)では、脳幹障害を考える。侵される脳神経の種類により、その解剖学的特徴から、さらに詳しく脳幹障害レベルを診断できる。一側上肢と反対側下肢の麻痺(交叉性片麻痺)は延髄錘体交叉部障害で起こる。
 対麻痺(両下肢麻痺):脊髄麻痺によるものが多いが、両側大脳半球の下肢運動中枢馬尾、種々の原因によるpolyneuropathyでも起こる。脊髄の完全横断性障害と脊髄ショック期では、上位運動ニューロン障害でも弛緩性対麻痺を呈するので注意を要する。
 四肢麻痺:両側大脳半球、脳幹、延髄、末梢神経、神経筋接合部、骨格筋のいずれの障害でも起こる。完全四肢麻痺は、延髄損傷、Guillain-Barre症候群等によるものが多い。 単麻痺:筋萎縮を伴わない場合は、大脳皮質運動領域の限局する病変、筋萎縮、Fasciculationを伴う場合は、脊髄前角、前根、末梢神経障害を考える。
 一部の筋の運動麻痺:末梢神経でみられ、同時にその支配領域の感覚障害を伴う。下垂手は 骨神経麻痺、猿手は正中神経麻痺、鷲爪手は尺骨神経麻痺、下垂足は腓骨神経麻痺、踵足は脛骨神経麻痺でみられる。
 A運動失調:末梢神経、脊髄後索、小脳、迷路、大脳の障害(特に前頭葉)によって起こる。深部感覚(位置・振動・関節覚)障害、Romberg微候陽性の場合、温痛覚障害があれば末梢神経性、温痛覚が正常であれば脊髄後索性である。深感覚正常、Romberg微候陽性の場合は小脳性(体幹失調が強い場合は小脳虫部、四肢失調が強い場合は、小脳半球)である。深部感覚正常で四肢失調を認めず、平衡障害のみ認め、迷路反射が消失している場合は迷路性である。大脳性の失調はまれであり、大脳皮質の他の臨床所見を欠く時は、小脳性失調との鑑別が困難である。
 B不随意運動:振戦(静止時、姿勢性、運動性)、舞踏病様運動、バリズム、アテトーゼ、ジストニー、ミオクローヌス、チック、などがあり、一見して判別できるものが多い。不随意運動の出現部位、速さ、振幅、規則性、持続時間、出現しやすい状況などに留意する。錐体外路系(主に基底核)や小脳−前庭系の障害によるものが多い。

臨床検査からのアクセス

 @尿、血算、血沈。
 A血液生化学、電解質:特にCK、aldolase、GTP、LDH、GOT、血清K値等。
 B血清学的検査CRP、血清補体価,免疫グロブリン抗AchR抗体、各種自己抗体、梅毒血清反応等。
 C髄液。
 D脳波。
 E筋電図:末梢神経伝導速度、針筋電図、誘発筋電図。
 F放射線学的検査:頭蓋骨X線、脊椎骨X線(単純および断層撮影)、computed tomography (CT)、magnetic resonance imaging(MRI)、血管撮影、脊髄造影、脳スキャン、脳槽シンチグラフィー、その他。
 G筋生検、神経生検。
 Hその他特殊検査:テンシロン試験、 麻痺誘発試験(低Kまたは高K血性の誘発)、前腕虚血運動負荷試験(血中乳酸値)、血清セルロプラスミン、phitanic acid、欠損酵素の同定(α-1-4glucosidase,phosphorylase等)、内分泌機能検査、自律神経機能検査、その他。

診断の確定へ

 @脳血管障害:突然または急性の発症と脳の局所徴候(片麻痺等)や意識障害頭痛などの神経症状より、診断は比較的容易。脳出血脳梗塞くも膜下出血の鑑別は、現在、CT検査により容易に可能である。
 A多発性硬化症:中枢神経系の多巣性の病変(脳、脊髄、視神経等に2か所以上の病巣が出現)と時間的多発性(寛解と増悪を繰り返す)のあることが診断根拠となる。
 B筋萎縮性側索硬化症:徐々に発症し、経過は進行性で、上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの障害を認め、感覚障害、眼球運動障害、膀胱直腸障害、褥瘡形成を認めないことより、診断は比較的容易。病初期や非定型例のものでは、筋電図、脊髄造影などの補助検査が鑑別上参考となる。
 CGuillain-Barre症候群:急性発症の多発神経根炎で、10〜20日で極期に達し、数日〜数週間極期が続いた後、1〜6か月で自然回復するという特徴的な経過をとる。髄液の蛋白細胞解離現象(発症後1〜2週)の診断的意義が高い。
 D重症筋無力症:骨格筋の易疲労性を主徴とし、眼症状(眼瞼下垂、複視)が高率に出現する。テンシロン試験陽性、筋電図のwaning現象、抗AchR抗体陽性はいずれも診断的意義が高い。
 E周期性四肢麻痺:周期的に繰り返す弛緩性運動麻痺(下肢>上肢、近位>遠位)で、運動後の休息等で麻痺が誘発されやすく、意識障害、感覚障害、尿便失禁を伴わないことが特徴。発作時の血清K値の異常があれば、正K血性を除き、確定診断ができる。確定診断に麻痺誘発試験が必要なこともある。
 F進行性筋ジストロフィー症:病型の診断は、遺伝型式、発症年齢障害筋の分布より行う。筋電図所見、血清酵素(CK、aldolase等)上昇が診断上参考となる。
 G骨髄小脳変性症:徐々に発症し、運動失調を主徴とする変性疾患で、慢性に経過する。CTで小脳、橋、脊髄に萎縮を認めれば診断上参考となるが、認められない場合もある。 HParkinson病:中年以後に徐々に発症し、振戦、筋強剛、無動の三主徴の他に、姿勢反応障害も特徴的であり、診断は比較的容易。

鑑別すべき疾患

 1)運動麻痺
 (a)片麻痺−(1)血管障害−脳出血脳梗塞(脳血栓、脳塞栓)、くも膜下出血 (2)脳動静脈奇形 (3)脳腫瘍 (4)脳膿瘍 (5)その他
 (b)対麻痺−(1)脊髄血管障害 (2)脊髄外傷 (3)脊髄腫瘍 (4)脊髄炎 (5)膿瘍その他の脊髄疾患 (6)大脳鎌髄膜腫 (7)多発神経炎 (8)その他 
 (c)四肢麻痺−(1)両側脳血管障害 (2)多発性硬化症 (3)急性散在性脊髄炎 (4)広汎性硬化症 (5)Creutzfeld-Jakob 病 (6)亜急性硬化症全脳炎 (7)進行性多巣性白質脳症 (8)脳性麻痺 (9)頚髄血管障害 (10)頚髄外傷 (11)頚髄腫瘍 (12)頚椎症、後縦靭帯骨化症、椎間板ヘルニアなどによるミエロパチー (13)脊髄空洞症 (14)筋萎縮性側索硬化症 (15)遺伝性痙性対麻痺 (16)脊髄性進行性筋萎縮症 (17)Werdnig-Hoffmann 病 (18)Wahlfart-Kugelberg-Welander 病 (19)Guillan-Barr'e 症候群 (20)遺伝性家族性ニューロパチー (21)Djerine-sotts 病 (22)Charcot-Marie-Tooth 病 (23)栄養障害性、中毒性ニューロパチー (24)重症筋無力症 (25)Eaton-Lambert 症候群 (26)ボツリヌス中毒 (27)進行性筋ジストロフィー症 (28)筋緊張症 (29)各種ミオパチー(先天性、代謝性、内分泌障害性等 (30)周期性四肢麻痺 (31)多発性筋炎 (32)その他 
 2)運動失調
 (a)末梢神経性−(1)アルコール性 (2)糖尿病性 (3)ジフテリア後遺症性 
 (b)脊髄後索性−(1)脊髄癆 (2)亜急性連合性脊髄変性症ビタミンB12欠乏)(3)Friedreich病 (4)その他 (c)小脳性−(1)血管障害 (2)腫瘍 (3)変性疾患−脊髄小脳変性症、亜急性小脳変性症、Louis-Bar症候群等 (4)中毒(有機水銀、アルコール、薬物等) (5)脱髄疾患多発性硬化症Schilder 病等 (6)代謝性−Refsum 症候群、Hartnup 病等 (7)その他 (d)迷路性 (e)大脳性
 3)不随意運動:
 (a)振戦−(1)Parkinsonism (2)多発性硬化症 (3)Wilson病 (4)中毒症(甲状腺中毒症、尿毒症、肝障害、アルコール、水銀等) (5) 本能性 (6)生理的 (7)ヒステリー、その他 
 (b)chorea-(1)Sydenham 舞踏病 (2)Huntington舞踏病 (3)その他 
 (c)アテトーゼ−(1)脳性麻痺 (2)脳血管障害 (3)変性疾患 (4)その他
 (d)バリズム−(1)脳血管障害(大部分) (2)その他 
 (e)ジストニー:(1)変形性筋ジストニー (2)痙性斜頚 (3)Hallervorden-Spatz病 (4) その他 
 (f)ミオクローヌス:(1)進行性ミオクローヌスてんかん (2)Lance-Adams 症候群 (3)C-J病 (4)SSPE (5)その他 
 (g)その他の各種不随意運動−チック、書痙等

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