概論
リンパ節は脾臓、胸腺などとともにリンパ系組織の一員であり、末梢リンパ節腫脹は感染、炎症、および免疫学的疾患などの場合にしばしば重要な診断の手がかりとなる。リンパ節腫脹は発生の機序より原発性、続発性に分けられ、原発性のものにはリンパ節に原発する腫瘍またリンパ節を優先的、選択的に侵す炎症等がある。また続発性としては他臓器腫瘍のリンパ節転移および他臓器の炎症により生ずるリンパ節の二次的反応などの原因が考えられる。感染症や炎症があることが臨床上明白であったり、他の検査によりリンパ節腫脹の原因が推定できる場合はよいが、重篤な疾患の可能性が疑われるときは、表在リンパ節生検を行い組織学的に診断することがしばしば必要となる。リンパ節に存在する細胞のsurface markerは診断、治療に有用なので、リンパ節生検をするときはなるべく、そのような検査が依頼できる体勢を整えてから行うのが望ましい。
病歴からのアクセス
@発症様式と経過:急激に腫脹したのか、または徐々か。リンパ節腫脹に気付いてからの増大傾向の有無。すべてのリンパ節腫脹部位は同時に起きたのか、または部位により腫脹の時期が異なるか。
A誘因:先行感染を疑わせる症状の有無。口腔内感染、特にう歯などの有無、動物(特に猫)の飼育をしていないのか。
B既応歴:結核、アレルギー等の有無、投薬歴(特に抗痙攣剤)。
C随伴症状:発熱、発疹等の皮膚症状、体重減少。
主要症候からのアクセス
@リンパ節腫脹部位の分布:表在性のリンパ節は、主として側頭部、後頭部、顎下部、鎖骨上窩、腋窩、鼠径部および肘窩などで触知される。リンパ節腫脹が、一つの解剖学的部位に限局しているのか、二つ以上、または全身的な分布をしているのかを知ることは診断上重要である。一つの解剖学的部位でのリンパ節腫脹はその近傍の炎症で起き得るが、二か所以上の離れた部位、または全身のリンパ節部位における腫脹は、局所の炎症では説明しがたい。また疾患により、リンパ節腫脹の好初部位が認められることもある。例えば、後頭部耳介後部のみに限局するリンパ節腫脹は、頭皮等の感染によるものが多く、また鎖骨上窩の硬く移動性のないリンパ節腫脹は胸郭内または腹腔内の悪性腫瘍転移の可能性が高い。鼠径部片側の無痛性リンパ節腫脹はlympho granuloma venereum等の疾患も考えておく。
Aリンパ節腫脹部位の局所所見
(a)皮膚所見:局所に熱感、発赤があれば急性化膿性炎症の場合が多い。感染であれば 初発部をさがすことに努める。
(b)疼痛:自発痛、圧痛のあるものは急性化膿性炎症が多い。結核、慢性炎症、および悪性腫瘍では無痛である。しかし、増殖速度の速い腫瘍では疼痛を生ずるものもある。
(c)硬度:急性炎症のリンパ節腫脹は緊張はあっても軟かい。慢性炎症のリンパ節は急性炎症のものより通常硬く、悪性のリンパ節腫脹との鑑別はしばしば困難である。悪性腫瘍の転移巣はさらに硬い。結核でもリンパ節石灰化が起こると非常に硬く触知される。
(d)移動性:炎症性疾患によるリンパ節腫脹は可動性であり、周囲組織との癒着があってもわずかに動く。一方、悪性腫瘍では周囲組織への浸潤がない場合は炎症性リンパ節腫脹と同様であるが、進行し浸潤が起きてくると可動性がなくなる。悪性リンパ腫では、リンパ節腫脹がかなり高度でも移動性が残ることもある。
(e)瘻孔形成:結核、actinomycosis、aspergillosis等では皮膚に瘻孔を形成すことがある。悪性リンパ腫、悪性腫瘍転移などでは認めない。
(f)腺塊形成:数個のリンパ節が融合して、腺塊を形成するのは、結核、悪性リンパ腫、悪性腫瘍のリンパ節転移の場合に起きる。一般の炎症性疾患では認められない。
Bリンパ節以外の症状:全身症状(発熱、体重減少、全身倦怠感)、脾腫、肝腫大、出血傾向等の有無、浮腫、神経症状、感染症の所見(皮膚化膿巣、う歯、その他)、外傷はないか。
臨床検査からのアクセス
@血算(赤血球数、Ht、Hb、白血球数、白血球分画、血小板数)血沈。
A血液生化学(GOT、GPTAALP、Bil、LDH、BUN、Cr、蛋白分画)。
B血清学的検査(CRPAASLO、RA、Waaler-Rose反応、Coombs試験、抗核抗体、免疫グロブリン定量、Paul-Bunnel反応、Wasserman反応、TPHA、その他疑わしいときは各種ウイルス、真菌に対する抗体。
C免疫機能検査。ツベルクリンテスト、リンパ球機能検査、リンパ球surface marker等。
D胸部、腹部X-P等。
E胸部、腹部リンパ管造影。
F胸部、腹部CT scan、Ga scintigram。
Gリンパ節穿刺(染色標本および細菌培養)、リンパ節生検(スタンプ標本、病理像、リンパ球Surface marker、細菌培養)。
H骨髄穿刺。
I細菌培養(血液、尿、痰、膿、リンパ節、骨髄)。
診断の確定へ
@急性細菌感染症によるリンパ節炎:(a)柔らかく、圧痛、皮膚の発赤、発熱を認める。(b)リンパ節のdraining areaに細菌感染巣(furuncle等)があることが多いが、初めか ら病巣の発見の困難な例もある。
Aリンパ節結核:(a)圧痛、皮膚発赤、発熱を伴わず、リンパ節が癒合しやすい。しばしば膿瘍をつくり瘻孔形成を起こす。(b)頚部に多発しやすい(lymphadenitis colli tuberculosa、リンコリ)。(c)結核菌の染色、培養、同定が必要。(d)肺結核、全身性の結核を伴わないこともある。
B伝染性単核症、風疹、流行性耳下腺炎等のウイルス感染症:(a)発熱、悪寒等、類感冒様症状をもって発症、(b)一部、または全身のリンパ節の腫大をみるが、特に前頚部に著しいことが多い。リンパ節は軟らかく、癒合、化膿はおきない。(c)発疹等、それぞれのウイルス感染症に特異的な臨床像を示す。特に伝染性単核症では、末血中に異型リンパ球増加を認め、肝脾腫、肝機能異常が起きやすい。
C悪性リンパ腫:(a)初発部位としては、頚部に最も多く、次に腋窩のリンパ節が腫大することが多い。リンパ節は弾性硬であり、発赤、圧痛を呈さない。(b)Hodgkin型では高熱、好酸球増多を起こすこともある。(c)局所リンパ節腫脹による、浮腫、神経障害などの圧迫症状を呈することがある。(d)診断の確定にはリンパ節生検が必要。(e)悪性リンパ腫の白血化、骨髄腫等の診断のため、末梢血白血球像を精検し、骨髄の検査をしておく。 D白血病:(a)一般的に全身のリンパ節が腫大するが、特に頚部、腋窩、鼠径部に多い。(b)貧血、出血傾向、発熱、全身倦怠感等の全身症状を呈することが多い。(c)どの白血病でもリンパ節腫大は起きるが、特に慢性リンパ性白血病に起きやすい。(d)血液像、骨髄像、リンパ節の生検等が診断に重要。異常細胞がある場合、surface markerを調べる。 E悪性腫瘍のリンパ節転移:(a)リンパ節は硬く(stony)、しばしば凹凸不整、周囲と癒着することが多い。(b)原発巣を潅流する場所にみられるが、特に鎖骨上窩(Virchow's node)に多い。(c)原発巣、また転移巣による症状があれば診断の推定ができるが、確定にはリンパ節生検が必要。(d)消化管透視、CTscan、Echo、Ga scintigram等が診断に有用。
鑑別すべき疾患
@炎症性腫脹
(a)限局性腫脹:1)急性細菌感染症(黄色ブドウ状球菌等)、せつ、皮膚化膿創。2)結核、梅毒、野兎病、真菌症、猫ひっかき病。3)サイコイドーシス。
(b)全身性腫脹:1)伝染性感染症、麻疹、風疹、伝染性単核症、流行性耳下腺炎。2)全身性皮膚炎症。
A腫瘍性腫脹
(a)悪性リンパ腫 non-Hodgkin lymphoma、Hodkin's disease
(b)白血病
(c)悪性腫瘍リンパ節転移
Bアレルギー性および膠原病
(a)血清病、薬物アレルギー
(b)全身性エリテマトーデス、慢性関節リウマチ
C内分泌疾患
(a)甲状腺機能亢進症
(b)副腎機能低下症
Dリポイド沈着性腫脹
(a)Hand-Schuller-Christian
(b)Gaucher、Niemann-Pick
メディカル・ノート
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現在の時点で、全身的リンパ節腫脹の患者を診て、筆頭にAIDS(後天性免疫不全症候群)を鑑別診断に入れる必要がないのは幸せである。しかし、リンパ節腫脹に加え、脾腫、出血傾向、持続性または不定性発熱、著しい脱力感、食欲不振、下痢、体重減少、重篤な日和見感染症等を示す場合AAIDSを考えに入れ、末血の血液像、リンパ球のhelper/suppressor比等を調べた方がよい。また、HTLV-Vの抗体が測定できる施設も増加してきている。
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