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出血傾向

 矢富 裕

概論

 正常の止血機構は、@血管壁の損傷に対する反応性の収縮、A損傷部位での血小板粘着・凝集による一時止血栓の形成、B血液凝固反応による強固な二次止血栓の形成、の三つが有機的に関連してなされている。したがって、血管・血小板・凝固の三つの要素のうちのどれかに障害が存在すると出血傾向が出現し得る。血小板の障害は量的な異常(血小板減少症)と質的な異常(血小板機能異常症)に、凝固の障害は凝固機序の異常と線溶能の亢進に、それぞれ分けてとらえると考えやすい。

病歴からのアクセス
 @出血は全身性か局所性か:鼻出血、消化管出血、性器出血は局所的因子のみで起こり得る。
 A先天性か後天性か:先天性の出血は乳幼児期に出現していることが多い。手術や外傷後の出血も先天性のものにはよくみられる。出血の家族歴も先天性のものに多い。家族歴があるものは劣性、優性、伴性の判別をする。過去の外傷や手術に際して出血がなく、家族歴もないときは、後天性である。
 B出血症状の推移、進展:血管、血小板の障害による出血は、特発性の皮膚・粘膜の表在性出血のことが多い。受傷後の出血は数秒以内に始まり、何時間も持続するが、いったん止血すると再発しにくい。凝固の障害による出血は、深部に進展し血腫を形成しやすい。受傷後の出血は何時間も遅れて現れることがある。

主要症候からのアクセス

 @点状出血、紫斑は、血小板の障害によることが多い。
 A斑状出血は、血管や血小板の障害によることが多い。
 B血腫は、凝固機序に異常があると起こりやすい。
 C毛細血管拡張症は、赤色の斑点を呈し、圧迫により白色化する。
 D関節血腫は重症の凝固異常の際によく起こり、血友病では多発する。
 E血尿は、重症の凝固異常が存在する場合、局所因子がなくとも起こり得る。
 F鼻出血が誘因なく頻発する場合、血小板や血管の異常を疑ってみる。

臨床検査からのアクセス

 @血管や血小板の異常に対する検査
 毛細血管抵抗試験(ルンペル・リード法)、出血時間、血小板数、血小板形態(末血像)
 A凝固の異常に対する検査
 フィブリノーゲン、プロトロンビン時間活性化部分トロンボプラスチン時間
 Bその他の特殊検査
 凝固因子の定量、血小板凝集能、血小板粘着能、フォン・ヴィレブランド因子測定、FDP、骨髄穿刺

診断の確定へ

 @血管の異常
 (a)遺伝性出血性毛細血管拡張症(オスラー病):常染色体優性。皮膚・粘膜の毛細血管拡張。鼻出血が多い。青年早期に発症し、徐々に増悪する。
 (b)後天性血管障害:単純性紫斑、老人性紫斑、シェーンライン・ヘノッホ症候群、壊血病、ステロイド性などを鑑別する。シェーンライン・ヘノッホ症候群は、主として小児に生ずる紅斑、紫斑、関節痛腹痛、血尿などの急性症状により特徴づけられAA群β溶連菌感染後に発症することがある。壊血病はビタミンC欠乏によるが、最近ではまれである。ステロイド剤大量投与やクッシング症候群の際、血管障害の出血が起こり得る。
 A血小板減少症
 (a)血小板の産生低下:放射線照射、薬剤(抗癌剤その他)、再生不良性貧血、白血病、悪性腫瘍骨髄浸潤、巨赤芽球性貧血などでは、巨核球による血小板産生が低下する。
 (b)特発性血小板減少性紫斑病(ITP):若年女性に多い。骨髄の巨核球の減少を認めない。血小板結合IgGの増加は診断的意義が高い。血小板減少を有する他疾患を除外する。亜型として、小児に多い急性ITPがあるが、感染後に発症し自然治癒することが多い。
 (c)二次性免疫性血小板減少症SLEホジキン病、CCL、薬剤性などを鑑別する。
 (d)その他の血小板破壊による血小板減少症:人工弁、重症感染症、巨大血管腫、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)などを鑑別する。TTPの症状として、血小板減少の他に溶血性貧血、神経症状、腎障害、発熱があげられる。
 (e)脾機能亢進:脾臓内の貯留が増加するための血小板減少で脾腫を認める。 
 B血小板機能異常症
 正常な血小板数にもかかわらず、出血時間の延長、皮膚・粘膜の異常出血存在する場合に疑う。
 (a)先天性血小板機能異常症血小板無力症ベルナール・スーリエ症候群、血小板放出機構異常症などを、血小板凝集機能・粘着能、血小板膜糖蛋白の解析などで鑑別する。血漿第[因子の異常を原因とするフォン・ヴィレブランド病は常染色体優性遺伝形式を取り、血小板機能検査で異常を呈する。
 (b)後天性血小板機能異常症尿毒症、骨髄増殖性疾患、白血病、異常蛋白血症、薬剤性 (特に非ステロイド系抗炎症剤)を鑑別する。
 C凝固異常性
 (a)先天性凝固異常症:1)血友病血友病Aは第[因子の欠乏、血友病Bは第\因の欠乏による。部分トロンボプラスチン時間は延長するが、プロトンビン時間は正常である。ともに伴性劣性遺伝形式をとる。2)その他の先天性凝固異常症:無フィブリノーゲン血症、異常フィブリノーゲン血症、第U、X、Z、]、XU因子欠乏症などが報告されているがまれである。
 (b)後天性凝固異常症:通常は先天性と異なり、多因子の欠乏が生ずる。頻度は先天性より圧倒的に高い。ビタミンK欠乏、肝不全、DIC、循環抗凝血素が臨床的に重要である。DICは血管内でのび漫性の血栓形成過程において凝固因子や血小板が消費されることによって生じ、各種の疾患に合併する。その検査データとして、プロトロンビン時間・部分トロンボプラスチン時間の延長、フィブリノーゲン・血小板の減少、FDPの増加などがあげられる。循環抗凝血素はSLCや輸血後の患者にみられ、第[因子に対するものが多い。
 D線溶亢進
 線溶亢進による血栓の溶解で出血傾向が起こることが稀にある。先天性のものとしてα2−プラスミン・インヒビターの欠乏、後天性のものとして、DIC、心臓外科手術時などの体外循環がある。

鑑別すべき疾患

血管の異常
 遺伝性出血性毛細血管拡張症(オスラー病)、単純性紫斑、シェーンライン・ヘノッホ 症候群、ステロイドホルモン過剰
血小板の異常
 巨核球の血小板産性低下
 ITP
 SLE、ホジキジ病、CCL
 TTP、脾機能亢進
 人工弁、重症感染症.巨大血管腫 
 先天性血小板機能異常症血小板無力症、ベルナール.スーリエ症候群、血小板放出機 構異常症、フォン.ヴィレブランド病
 後天性血小板機能異常症(各種疾患)
凝固異常症 
 血友病A、B
 ビタミンK欠乏、肝不全、DIC、循環抗凝血素

メディカル・ノート
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 出血傾向を呈する患者を診察する場合、薬剤の服用について詳しく尋ねることは非常に重要である。血小板減少、血小板機能異常、凝固異常を呈する薬剤は数多くある。実際の日常臨床においては、出血傾向の原因は先天性でなく後天性であることが圧倒的に多く、後天性のものの中で薬剤によるものは重要な位置を占めていることを銘記すべきである。また、複数の薬剤同士の相互関係も重要であり、例えば、ワーファリン投与患者に誤ってアスピリンを投与した場合には著明な出血症状を起こし得る。
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