概論
急性腎不全とは、腎排泄機能障害が急激に発生した病態をさし、糸球体濾過値(GFR)の低下に起因し、尿素、クレアチニン等の蛋白代謝物の急激な体内蓄積を生じる。一般に、尿量の変化により、@乏尿性急性腎不全:尿量400ml/日未満、A非乏尿性急性腎不全:尿量400ml/日以上に分類されており、病因の存在部位により@腎前性急性腎不全、A腎性急性腎不全、B腎後性急性腎不全に分類される。
非乏尿性急性腎不全が注目されるようになった歴史は浅く、ここ20年ほどであるが、その原因として、診断面からは、乏尿、無尿(100ml/日未満)症状を伴わないことによる見過ごし、治療面からは、抗生物質、抗癌剤、およびループ利尿剤等が指摘されており、現在腎性急性腎不全の約20%が非乏尿性腎不全といわれている。乏尿性急性腎不全と非乏尿性急性腎不全の違いは障害の程度の差で、質的なものではないと考えられており、臨床的症状、経過、予後ともに前者に比して後者は軽症かつ良好なことが多い。腎前性、腎性、腎後性各急性腎不全は傷害部位による分類であるが、臨床上原因疾患の診断に有用なものである。腎前性、腎後性急性腎不全は腎自体には障害を認めず、腎をとりまく他の環境の異常により、二次的にGFRが低下した状態であるが、特に腎前性は異常環境の持続により腎性へと移行する場合が多い。
臨床症状
急性腎不全は、臓器別機能障害の一つと考えれば、その名のごとく腎臓機能障害であり、その臨床症状は尿毒症に由来する症状であるが、一般的には、すでに急性腎不全を生じた基礎疾患が存在する場合が圧倒的に多く、合併症として発症する点に常に留意しなければならない。以下、尿毒症について記す。
尿毒症とは腎不全にみられる症状を指し消化器症状、循環器症状、呼吸器症状、中枢神経症状、出血傾向等を呈する。尿毒症の起因物質は、血液中の未同定の透析可能物質で現在、研究が進められているところであるが、複数である可能性も十分ある。
尿毒症症状
@消化器症状:悪心、食欲不振、嘔吐、下痢、下血(タール便)。
A循環器症状:高血圧、不整脈、心外膜炎、心タンポナーデ、心不全、心停止。
B呼吸器症状:肺水腫(uremic lung)、呼吸不全。
C中枢神経症状:精神症状(人格変化、妄想、幻覚、錯乱)、意識症状 (傾眠、昏睡)、末梢神経障害、痙攣、てんかん発作。
D出血傾向:消化器出血、鼻出血、歯肉出血等。
Eその他:水、電解質異常(浮腫、脱力感、全身倦怠感、代謝性アシドーシス(Kussmaul呼吸、末梢循環不全)
一般検査所見
まず急性腎不全の発症を早期に発見することが大切である。理論的には早期にその原因を改善し得れば、腎不全の進行を軽微に止めることができる。一般検査所見で急性腎不全における特徴的な項目としては以下のごときものがあげられる。これらは、きわめて基本的な項目と限定したもので、急性腎不全の発症を発見するきっかけとなる代表項目として記したのであり、実際に臨床の場においてはほかの検査所見、および臨床症状が発見の糸口となることもある。
@尿量の減少。ABUN,血清Cr,K値の上昇:まずこの二点に注目し、どちらか一方、または双方に異常所見を認めたら急性腎不全の発症に疑いを持ち、その症例の問題点として経時的に追跡する(一部は過去の経過も必要なことが多い)と同時に以下の項目につきチェックを行い、急性腎不全の原因に対するスクリーニングを試みる。
@病歴、基礎疾患の有無、A水分の摂取量と体重の変動。B投与薬剤の総点検、C意識状態:血圧、呼吸、体温、等の理学的所見。D尿、血液、X線、CT、超音波、その他諸検査、データ。
以上、@〜Dは、その症例の情報のほとんどすべてを含んでいることになるが、C、Dの中に急性腎不全発症およびその原因のヒントが存在する場合が実際には割に多いのではないかと考えられるので、あえて記させていただいた。
特殊検査
まず急性腎不全の発症に着眼した場合、その原因に接近するためには、腎前性、腎性、腎後性の障害部位スクリーニングが最も簡明であろう。まず第一歩として、膀胱カテーテルを挿入するか、または超音波にて膀胱の内容量の検査を行う。大量の尿の排出および膨満した膀胱(通常恥骨結合上縁にて観察することで見当がつく)の検査。一般には尿量(時間尿)の測定および尿検査(浸透圧、Na濃度)を実行するべき場合が多いので留置カテーテルを用いる。以上の処置にて尿閉を除外した後は、以下の検索にてまず腎後性急性腎不全に関してチェックを行うのが内科の立場としては望ましいと思われる。理由として、腎後性腎不全は超音波にてきわめて安全にかつ迅速に判断し得る場合が多い(水腎症)からであり、基本的には泌尿器科的治療にて解決するべき疾患と考えられるからである。もちろん、透析療法などにて全身状態改善、外科的処置を施すまでの経過措置等を要する場合もあるが、超音波画像診断にて水腎症を認めれば直ちに泌尿器科と連絡をとるべきと考えられる。ついで得られた尿の性状(沈渣、浸透圧、Na濃度等)の検索にて腎前性、および、腎性の判断を行う。沈渣は腎前性の場合は、軽微な所見しかない場合が多いが、腎性の場合は、各種円柱や血尿等、多彩な所見が得られる。浸透圧は、正確には血漿浸透圧と比較してその比をみるべきであるが、腎前性では約500mOsm/kg以上と高張濃縮尿、腎性では約300mOsm/kg前後の等張尿となる。Na濃度に関しては、腎前性の場合は約20mEq/l未満と低値であり、極端な典型例では10mEq/l以下となる場合がある。腎性の場合は通常約20mEq/l以下とNa濃度が上昇している。さらに有用なものにFENa(%)(U/P)Na(U/P)Cr*100があり、一般に、1%以下は腎前性、1%以上は腎性とされている。
診断
臨床症状、一般検査所見、特殊検査所見それぞれを含めて急性腎不全の診断および腎前性、腎性、腎後性の判別に至るポイントを簡単に記す。
@急性腎不全の発見:尿量の減少(400ml/日以下)BUN、血清Cr、K値の上昇。
A腎前性、腎性、腎後性の判断:a.腎後性の可能性。導尿、超音波腎画像診断(水腎症の有無)。b.腎前性の可能性(主に腎性との鑑別)、血圧、出血の有無、尿(血漿)Na濃度。
判断の目安
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| 腎前性 | 腎性
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尿浸透圧 |約500mOsm/kg以上 |等張尿
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尿Na濃度FENa |約20mEq/l未満*1%以下 |20mEq/l以上
(%U/P)Na(U/P)| |1%以下
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*典型的な場合は10mEq以下となることがある。
腎前性と腎性の判断に関しては他にも@BUN/S-Cr(腎性では約15以上)。A中心静脈圧(CVP)(腎前性では低下3cmH2O以下)。B補液(生食輸液、輸血)および補液+利尿剤(通常、フロセマイド20mg〜400mg iv)による利尿の有無等多くのモニターすべき項目があるが、現実的にまず実行可能な項目から検索して判断するようにしたほうがよい。
管理上必要な検査
現在は多くの検査手段があり項目も多彩であるので以下以外にも参考となる項目があるが、より原則的な項目に関して列記した。
基本検査
@理学所見、病歴:体重、血圧、呼吸状態、皮膚所見、出血の有無、脱水の有無(中心静脈圧(cvp))。
A画像診断等:胸部X-P、腎心等超音波検査、心電図。
B血液検査:血算、(出血、感染の有無)凝固因子 PT fib. aPTT(DIC, Vit. K不足)。生化学項目(電解質Na、K BUN Cr)、動脈血ガス分析(代謝性アシドーシスの程度のチェック)。十分なエネルギー(最低30kcal/BWkg)補充がないとBUNは高値となる。
C尿検査(無尿の場合は当然不可能):沈渣、電解質(Na K Cr)。
追加検査項目(主に合併症早期発見)
感染症等を中心とする合併症を早期に発見するため以下の項目を管理する。
@炎症反応etc.ESR,CRP,WBC,Plt.(chest X-P)
A消化管出血etc.便潜血、内視鏡、(BUN,K)
B膵炎・肝障害 アミラーゼ、トランスアミラーゼ、LDH.ALP,t-Bilなど
C脳血管障害にも留意、頭部CT、眼底検査。
D使用薬剤の質、および量に対する検討も必須である。
E利尿期における脱水、電解質の変動(低Na血症等)にも留意。
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