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甲状腺機能低下症

 五十嵐徹也

概論
 甲状腺ホルモンの作用が不足する病態であり、その病因は部位的に@甲状腺(原発性)、A下垂体(二次性)、B視床下部(三次性)C末梢受容体とに分類される。頻度的にはほとんど@である。

臨床症状
 甲状腺ホルモンの標的組織が広範囲にわたるため症状・理学的所見は全身的にみられる。一般的に下垂体性(P)では甲状腺機能低下症状としては軽い。
@全身症状:
 粘液水腫様顔貌(puffy)、無力感、体重増加、低体温、寒がり、動作・会話が緩慢、hypothyroid coma(意識消失、低体温、低血糖←寒冷、感染、外傷)。
A精神・神経症状:
 物忘れ、頭痛、自発性の低下、ボケ、寡表情、パラノイアあるいはうつ(myxedema madness)、眼の暗順応不全、小脳失調、手指異感覚(carpal tunnel syndrome)。
B筋症状:
 筋強直、筋痛AATRなどの腱反射の緩徐な戻り(hung-up reflexes)、筋殴打による膨隆( mounding phenomenon),Kocher-Debre-Semelaigne or Hoffmann syndrome(筋容量の増大、機能低下)、関節痛
C皮膚症状:
 乾燥、蒼白、低温、粘液水腫、無汗、黄色調、脱毛(頭、身体、眉外半)、毛髪・爪の育成遅滞、皮下出血、魚鱗癬、(P)色素低下。
D循環器症状:
 脈圧低下、徐脈、心音減弱、心肥大(myxedema heart)、心不全、狭心症は稀、(P)心肥大なし。
E消化器症状:
 便秘、食欲低下、イレウス(myxedema ileus)、稀に腹水、低酸症、萎縮性胃炎
F口腔・耳鼻科的症状:
 いびき、嗄声、巨大舌、低調な話声、感音性難聴、甲状腺腫(場合によっては触れない:表3参照)。
G血液・免疫学的症状:
 貧血、他の自己免疫疾患の合併(診断の項参照)。
H内分泌・代謝学的症状:
 副腎不全糖尿病との合併、下垂体ホルモン異常、(乳汁分泌)、月経異常(過多月経)、性欲減退、不妊、流産。

一般検査所見(表2)

@甲状腺ホルモン作用の不足を反映する検査所見
 高脂血症(T.Chol,TG,LDL↑、HDL↓)、筋由来酵素の上昇、循環機能異常が特徴的。
A自己免疫異常を反映する検査所見
 抗甲状腺抗体(+)、血沈の軽度上昇、貧血など。

  表1 甲状腺機能低下症を引き起こす病態・疾患
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@原発性:
 慢性甲状腺炎(橋本病)。各種甲状腺炎に伴うthyrotoxicosis後(一過性)。先天生合成障害。特発性粘液水腫。広範な甲状腺への癌転移。ヨード不足。手術による全摘あるいは亜全摘。アイソトープ治療後。頚部への放射線治療。
A二次性:
 各種下垂体腫瘍(TSHは他の下垂体ホルモンより欠落しにくい)。TSH単独欠損症。
B三次性:
 TRH低下症。
C末梢性:
 Refetoff症候群。
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  表2
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尿一般検査:
 正常、ときに蛋白尿。
血算:
 貧血:正球性、大球性(悪性貧血)、小球性(鉄吸収↓、過多月経)。
血液生化学:
@脂質:T.Chol↑↑、TG↑(おもにtypeUa or b)。
A筋由来酵素(GOT,LDH,CPK:MM)↑。
B電解質:ほぼ正常。Na↓,Ca↑,Mg↓,UA↑.
C腎機能:通常正常、GFR↓。水利尿。
D膠質反応:↑。
Eその他:ビタミンB12↓AALP↓、(juvenile),carotene↑。
血沈:
軽・中等度上昇(20〜50/hr)。
血清学的検査
 CRPは通常(-)。CEA↑。globulinn分画↑。(β,γ)サイロイドテスト、抗マイクロゾーム抗体。抗核体、他の自己抗体などときに陽性。
X線診断:
 (胸部)心肥大、心嚢水貯留、甲状腺による気管の圧迫、胸水
 (頭蓋)トルコ鞍拡大。
心電図:
 T波の平低下、低電位、洞性徐脈、ブロック。
心エコー:
 stroke volume↓、心嚢水貯留AASH,IHSS.
心機図:
 systolic time interval の延長。
消化管検査:
 胆嚢、大腸の拡大。
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  表3
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分類     TSH  FT4   甲状腺腫  診断上有用な検査
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@原発性   ↑   ↓    +/−   抗甲状腺抗体、甲状腺超音波・RI診断
A下垂体性 −↓   ↓    −    下垂体・視床下部画像診断、sTSHまたは
B視床下部性−              TRHテスト、抗体(−)
CRefetoff  ↑   ↑    +
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*末梢血甲状腺ホルモンレベルは結合蛋白であるTBGレベルに左右されるので、ここではF T4で示した(臨床検査編参照)。
*その他の内分泌検査異常:1,25(OH)2D3↑、PTH↓、PRL↑、insulin低血糖に対するGHの 分泌反応↓。尿中の17-OHCS/17-KS↓、free cortisol→。

特殊検査所見

@内分泌学的検査:確定診断のための絶対条件と考えてよく、表3に示すように整理される。
A免疫学的検査:橋本病の場合には抗甲状腺抗体、抗胃壁細胞抗体。
Bその他:凝固因子Z、\の低下、甲状腺以外の内分泌異常(表3付記参照)。

診断

@病因的な診断:臨床症状と一般的結果から抗状腺機能低下病態が疑われ、内分泌 学的検査により診断が確定した場合、さらにその病変の座を確認する必要がある(表1、3)。
A機能的な診断:overt hypothyroidism(TSH>20,T4↓)、latent(compensated)hypothyroid(5B合併症:悪性貧血副腎不全(Schmidt症候群)、RA、SLE、Sjogren、慢性肝炎、慢性腎炎、IDDM

管理上必要な検査

 いずれの場合にもT4による補充(replacement)治療開始後はhypothyroidismの改善程度、そしてfull replacement後はeuthyroidismであることを臨床症状から経時的に確認することが必須である。それらのポイントおよび必要な検査事項を表4にまとめる。

  表4 甲状腺機能低下性の治療管理に必要な事項
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@自覚症状:活動性、寒がり、月経異常、便秘等につき改善の有無を問診。
A視診:顔つき、動作・話し方のスピ−ド、声のピッチに注意。
B理学所見:脈拍数の増加、体重の減少AATRの戻りの正常化程度を確認。
C治療程度が適正かどうか:患者が高齢な場合循環器系への影響(狭心症、頻脈、不整脈)に注意。
D必要な検査:
 a)一般検査の異常値が正常化するかをfollowする:1回/2〜4週。
 b)甲状腺機能状態・治療状態が適正かどうかの最終的な判定は高感度TSH(sTSH)が最適である(正常範囲0.5〜5.0μU/mlに保つ):T4を徐々に増量中はTSHを1回/2〜4週、維持量が決まればsTSHを1回/6か月。下垂体性の場合はFT4を正常に。
 c)下垂体性の場合は副腎機能不全の有無を伴うかどうかを治療前に確認しておくことが必須(もしあればコーチゾールを先に補わなければいけない)。
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メディカル・ノート
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甲状腺機能低下症がほかの疾患に間違えられやすい理由

@精神・神経疾患:表情に乏しく、鬱あるいは分裂症とされやすい。とき
に脳派異常(slow α、低電位)を伴う。
A筋疾患:CPKLDH↑、血沈↑、筋痛より筋炎を疑われる。
B悪性腫瘍:便秘貧血LDHCEA↑から消化器系の悪性腫瘍を疑われやすい。
C循環器疾患:心肥大、心不全。特発性心筋症を疑われる。ジギタリス中毒を起こしやすいので注意。
D膠原病:血沈↑、各種自己抗体(+)。実際に合併することもある。
E見かけや検査上甲状腺機能低下を思わせる場合がある(Sick Euthyroid Syndrome):感染、外傷、手術、火傷、悪性腫瘍、飢餓、肝疾患、心不全、腎不全(low T4 syndrome)。さらに重篤となると(low T4 syndrome)。
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