概論
全身性エリテマトーデス(SLE,systemic lupus erythematosus)は自己抗体や免疫複合体の出現等に基づく多臓器障害を主徴とする疾患である。本疾患名は,特徴的な顔面の蝶形紅斑が飢えた狼による傷(狼蒼,ループス)に似ていることに由来するが,臨床症状は皮疹にとどまらず,実に多彩で,発熱,多関節痛および多関節炎,漿膜炎,貧血,血小板減少,腎症状,神経症状などがある。SLEは圧倒的に女性,特に20〜30歳代の女性に好発し,発症の男女比は1対10とされている。我が国には7,000〜9,000人の患者が存在し,有病率は人口10万人あたり66〜85人と推定される。
臨床症状
@全身症状:発熱,全身倦怠感,易疲労感,体重減少,食欲不振,悪心などの全身症状がみられる。特に発症初期には,このような症状を主訴する頻度が高い。
A関節症状:関節痛および関節炎はSLEでもっともみられる症状で,小関節よりも膝関節などの比較的大きな関節が左右対称性におかされることが多い。関節の変形や関節X線像上のびらん性変化の出現はまれである。筋肉痛がみられることもある。
B皮膚症状:SLEで2番目に頻度の高い症状で,紅斑(特に両頬部の固定した紅斑),円板状紅斑(頭皮,外耳,顔面),レイノー現象,光線過敏症,皮膚潰瘍,壊疽,脱毛,粘膜潰瘍(特に口腔潰瘍と鼻咽頭潰瘍)等がみられる。
C腎症状:尿所見のみの異常(蛋白質,血尿,円柱尿)から,ネフローゼや腎不全症状を呈するものまで種々である。
D神経症状:精神症状と痙攣の頻度が高い。そして,前者は見当識や計算力の障害などの有無により,器質的精神障害(心因反応,分裂病状態など)とに分けられる。また,頭痛,脳神経および末梢神経障害,片麻痺がみられることもある。器質的精神障害を除き,大部分の症状は可逆的であることが多い。
Eその他の症状:胸膜炎,ループス肺炎,心膜炎,弁膜病変,腹痛,全身リンパ節腫脹,各種臓器血管の狭窄症状等の出現もまれではない。
表1 全身性エリテマトーデスの検査所見
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血算 白血球減少,リンパ球減少,正球性正色素貧血あるいは溶血性貧血
血沈 促進(しばしばCRPと解離)
凝固系 PPT延長(抗凝固因子抗体の関与)
血液生化学 低アルブミン血症,高γグロブリン血症(TTT,ZTT高値),BUN・クレアチニン上昇
免疫学的検査 Wassermann 反応生物学的偽陽性,直接クームス試験陽性,リウマトイド因子陽性,補体価(CH50,C3,C4)低値,抗核抗体陽性(抗2本鎖DNA抗体,抗Sm抗体など),LE細胞現象陽性,抗リンパ球抗体・抗血小板抗体陽性,免疫複合体高値
胸部X線 び漫性間質性浸潤影,胸水
眼底検査 綿花状白斑と静脈拡張
心エコー 心嚢液貯留,弁膜病変
髄液検査 総蛋白・IgGの上昇(中枢神経症状の評価と感染の除外に有効)
脳波 び漫性徐波をはじめ種々の異常所見
皮膚生検 細血管や付属器周囲の細胞浸潤,基底層の液状変性,band test陽性
腎生検
1.病型分類
1)メサンギウム型(微小)ループス腎炎
2)巣状(軽度)ループス腎炎
3)び漫性(重症)増殖生ループス腎炎
4)膜生ループス腎炎
2.活動性病変と非活動性病変の区分
1)活動性病変:細胞増多,核崩壊,segmentalな壊死,fibrinoid, wire-loop,ヘマトキシリン体など
2)非活動性病変:基底膜肥厚,線維化,硝子化,癒着など
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一般検査所見(表1)
@血算においては,正球性正色素性貧血(ときに網状赤血球増多を伴う溶血性貧血)と白血球減少を認める。白血球減少症の主体はリンパ球減少症である。また,血小板減少を伴うことも多い。
A急性期反応として血沈は促進するが,CRPの陽性の程度は低い。
B血清学的一般検査では,リウマトイド因子の出現,梅毒血清反応の生物学的偽陽性(凝集法で陽性,TPHAで陰性)を認めることがある。後者は診断に有用である。
C呼吸器障害の一般検査には,胸部X線写真(肺間質のび漫性浸潤影,胸水貯留像)や呼吸機能検査および血液ガス測定(拘束性換気障害,低酸素血症)を行う。
D腎障害の有無とその程度の検索には検尿が有効である。主な所見は蛋白質で,沈渣に赤血球および各種円柱を認める。また,進行例では血清のBUNおよびクレアチニン値が上昇する。また,ネフローゼを呈する場合には,低アルブミン血症と高コレステロール血症をみる。
E心障害の検索には,胸部X線,心電図,心エコー検査が有用である。
F中枢神経障害に対しては,脳波検査や髄液検査の他,頭部CT検査やシンチグラフィー検査が用いられる。
特殊検査所見(表1)
@抗核抗体:間接蛍光体法による抗核抗体(FANA,fluorescent antinuclear antibodies)はSLE患者の95%以上に陽性で,スクリーニング検査として優れている。特に活動期には,peripherel patternの特異性が高い。さらに,沈降反応,ラジオイムノアッセイ,酵素抗体法を用いると,SLEに特異性が高い抗核抗体(抗2本鎖DNA抗体,抗Sm抗体)の測定が可能である。両者とも活動期には高値を示し,炎症活動性の鎮静化とともに力価が低下あるいは消失するので,経時的測定はSLEの活動性の良い指標となる。また抗核抗体を反映して,活動期にLE細胞現象がみられることがある。
A補体:活動期にCH50,C4,C3の低下が認められる。やはりすぐれた疾患活動性指標である。
B各種細胞成分に対する自己抗体:抗赤血球抗体,抗リンパ球抗体,抗血小板抗体,抗神経細胞抗体を認めることがある。
C免疫複合体:免疫複合体は抗核抗体(特に抗DNA抗体)と対応抗原との結合物とも考えられており,ループス腎炎や血管炎の発症などに深く関与している。血清免疫複合体の高値陽性となる頻度は高い。
D病理組織学的検査
皮膚生検:HE染色で,細血管および附属器周囲のリンパ球浸潤と基底細胞層の液状変性を認める。また,蛍光抗体直接法で,表皮真皮境界部(DET)に免疫グロブリンと補体成分の顆粒状の沈殿がみられ(band test陽性),SLEに特徴的な所見である。
腎生検:組織学的検査(光顕的,電顕的,免疫組織学的検査)から,糸球体病変の形態学的分類が行われる。複数の分類が試みられているが,代表的なものを表1に示す。また,その所見を活動性病変(可逆性変化で治療に反応する)と非活動性病変(非可逆性変化で治療に反応しない)に分類することが可能で,予後を判定する上で,有用といえる。
診断
@アメリカリウマチ協会の分類基準(表2)に従って診断する。早期例では,典型的な複数の症状が出現するまで診断を保留せざるを得ない場合がある。また,多発性筋炎,全身性強皮症,慢性関節リウマチなどとの重複例もあり,注意を要する。
A早期例での鑑別診断に際して、慢性関節リウマチなどの膠原病の他、皮膚疾患として多形性紅斑、麻疹、扁平苔癬、また、神経疾患として多発性硬化症、てんかん、精神分裂症、さらに、血液疾患として血小板減少性紫斑病などに留意する。
B薬剤によるループス症候群を除外しておく必要がある。
表2 全身エリテマトーデス診断基準(アメリカリウマチ協会,1982)
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診断基準 定義
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1.頬部紅斑 頬骨隆起部上の平坦あるいは隆起性の固定した紅斑
Malar rash
2.円柱状紅斑 付着する角化性落屑および毛嚢栓塞を伴う隆起性紅斑性
Discoid rash 局面,陳旧性病変では萎縮性瘢痕形成がみられることが
ある。
3.光線過敏症 患者の病歴あるいは医師の観察による日光に対する異常
Photosensitivity な反応の結果生じた皮疹。
4.口腔内潰瘍 医師の観察による口腔もしくは鼻咽頭潰瘍。通常は無痛
Oral ulcers 性である。
5.関節炎 圧痛,腫脹あるいは関節液貯留により特徴づけられ,2
Arthritis つあるいはそれ以上の末梢関節をおかす非びらん性関節炎。
6.漿膜炎 a)胸膜炎−−−信頼し得る胸膜炎による疼痛,もしく
Serositis は医師による摩擦音の聴取,もしくは胸水の所見。
あるいは,
b)心膜炎−−−心電図,もしくは摩擦音,もしくは心
嚢水の所見により証明されたもの。
7.腎障害 a)0.5g/日以上,もしくは定量しなかったときは3+以
Renal disorder 上の持続性蛋白尿。
あるいは,
b)細胞性円柱−−−赤血球,ヘモグロビン,顆粒,尿
細管性円柱あるいはそれらの混合。
8.神経障害 a)痙攣−−−有害な薬物もしくは既知の代謝異常,例
Neurologic えば尿毒症,ケトアシドーシスあるいは電解質不均
disorder 衡などの存在しないこと。
あるいは,
b)精神障害−−−有毒な薬物あるいは既知の代謝異常
例えば尿毒症,ケトアシドーシス,もしくは電解質
不均衡の存在しないこと。
9.血液学的異常 a)溶血性貧血-網状赤血球増多を伴うもの。
Hematologic b)白血球減少症-2回あるいはそれ以上の測定時に総白血球
disorder 数が4,000/mm3未満であること。あるいは、
c)リンパ球減少症-2回あるいはそれ以上の測定時に1.500
/mm3未満であること。あるいは、
d)血小板減少症-有害な薬物の投与なしに10万/mm3未満であること。
10.免疫学的異常 a)LE細胞陽性。あるいは、
Immunologic b)抗DNA抗体:天然のnativeDNAに対する抗体の異常高値。あ
disorder るいは、
c)抗Sm抗体:Sm核抗原に対する抗体の存在、あるいは、
d)血清梅毒反応の生物学的偽陽性:少なくとも6か月間陽性
でTreponema pallidum非働化あるいは螢光トレポネーマ
抗体吸収試験により確認されたもの。
11.抗核抗体 免疫螢光抗体法もしくはそれと等価の方法で、経過中のどの
Antinuclear 時点にでも異常高値を示す抗核抗体を検出すること。
antibody “薬剤誘発性ループス症候群drug induced lupus syndrome”
と関連していることが知られている薬剤投与のないこと。
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診断:経時時、同時、あるいは経過中のどの時点にでも、上記11項目中、4項
目以上が存在する場合、SLEと診断する。
管理上必要な検査
本疾患は再燃と寛解を繰り返すので、全身症状を初めとする自覚症状と、表3に示す臨床検査により、その経過を観察する。なお、長期管理に際しては、感染の併発と治療(特にステロイド剤)に伴う副作用の出現にも注意を要する。
表3 全身性エリテマトーデスの管理上必要な検査
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2-4 週間隔
1)血算(ヘモグロビン値、白血球数、血小板数)
2)血沈、CRP
3)補体価
4)血液生化(特にBUN,クレアチニン)
5)検尿(蛋白、尿沈渣)
3-6 か月間隔
1)胸部X線検査
2)抗核抗体
6-12 か月間隔
1)心電図
2)呼吸機能検査
3)胃内視鏡(ステロイド剤による潰瘍の検索)
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メディカル・ノート
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薬剤誘発生ループス症候群
プロカインアミドやヒドララジン等の薬剤投与により、SLEに類似した症候を呈することがある。本症候群では多関節痛、筋痛、漿膜炎、発皮疹、リンパ節腫脹を見るが、腎炎や中枢神経障害を呈することはまれである。抗核抗体は陽性となるが、抗ヒストン抗体や抗1本鎖(変性)DNA抗体が主体をなし、抗2本鎖DNA抗体の出現や低補体血症を認めることはない。
一般的に、薬物代謝に際してのアセチル加速度は個体によって異なり、2群(slow acetylator と rapid acetylator)に分けられる。そして、本症候群の患者の多くが、slow acetylator に属するという点は、その発症機序との関連で興味深い。
原因薬剤の中止により、症状は数週間のうちに比較的速やかに改善する。
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