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脳炎

 江口 清

概論

 脳実質に炎症がみられる状態で、通常は感染に起因するものをいう。感染性の病原体は、いずれも原因となり得るが、主体はウイルスであり、髄膜脳炎の形をとることが多い。まれには、真菌特にクリプトコッカス感染による脳炎や、感染性心内膜炎敗血症に伴った塞栓性巣性脳炎を認めることもある。予後重篤なものとしては日本脳炎や狂犬病があげられるが、これらは、本邦では現在きわめてまれである。代わって単純ヘルペス脳炎が、頻度の高いこと(年間人口100万人に対して1〜2人、季節差なく、ほぼあらゆる年齢層にみられ男女比は3:2)およびその治療法の進歩と早期診断の必要性において注目されるようになった。ここでは、慢性脳炎や脳幹脳炎などのやや特殊な病態を省き、主として急性ウイルス性脳炎について述べる。

臨床症状

 @前駆症状:ときに数日から1週間ほど前より、全身倦怠感や感冒症状を認めることがある。
 A発熱:通常、急な発熱とともに以下の症状を呈する。
 B髄膜刺激症状、頭蓋内圧亢進症状:頭痛はもっとも一般的な症状である。嘔気(伴わないこともあり嘔吐も頭痛と平行して認めることが多い。髄膜刺激症状として項部硬直、Kernig 徴候,Brudzinski 徴候など(髄膜炎の項を参照)がみられるが、脳炎が主である場合、これらの徴候は軽度のことも多い。頭蓋内圧亢進状態が持続すれば、うっ血乳頭を認める。呼吸異常が起これば、脳ヘルニアとして危険な徴候。新生児では、泉門の膨隆に注意。
 C意識障害:病初期より傾眠状態から昏睡まで諸段階の意識水準の低下を示し、幻覚、せん妄、異常行動をみることもある。
 D他の神経症状:全身痙攣、ミオクローヌス、片麻痺、反射異常、共同偏視、排尿障害など症状は多彩である。日本脳炎では、錐体外路系に基底核の障害が起こりやすく、その場合、筋硬直(最も多い)、振戦、アテトーゼおよびchorea様の不随意運動を認める。側頭葉、眼窩部前頭葉を強く障害する単純ヘルペス脳炎では、幻覚、記憶・記銘力障害、失語症などが意識障害と前後して発現することが多い。     

一般検査所見(表1)

 髄膜炎に準じる(髄膜炎の項参照)

特殊検査所見(表1)

 @髄液所見:圧上昇、細胞数増多(初期は多核球が多く後に単核球が中心となる)、蛋白増加、糖は正常または軽度増加を示すことが多い。単純ヘルペス脳炎では、出血壊死病変に対応して約30%の症例で赤血球、キサントクロミーを認める。他の病原体による場合も主としてその髄膜における炎症を反映する。
 A脳波:全般的徐波化の他、痙攣発作に関係した突発性異常波をみることがある。単純ヘルペス脳炎の典型例では、一側または両側側頭部、前頭部に周期性放電を認める。
 BCT:異常のない例から、mass effect を伴って広汎低吸収域を示す例までさまざま。単純ヘルペス脳炎では、急性期に側頭葉を中心とした低吸収域を認めることが多く、出血による高吸収域を混じることもある。
 C血清および髄液の抗体価:補体結合抗体価(CF抗体価)、中和抗体価(NT抗体価)、赤血球凝集抑制抗体価(HI抗体価)測定の他、鋭敏なELISAにより上昇を確認。
 Dウイルスの分離同定:脳生検は本邦においては一般の同意を得がたい。
 E誘発電位:伝達経路の障害の程度により、波形や潜時に異常を認める。脳幹部病変の評価に有用(聴性脳幹反応、体性感覚誘発電位など)。

  表1 脳波の検査所見(急性ウイルス性脳炎
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 血液および尿|1 血沈値亢進、CRP陽性などの炎症の存在を示す所見    
       |2 白血球数は増加(初期や重症例)または減少(主にリンパ分画)
       |3 起炎体に対する抗体価の上昇             
       |4 尿蛋白陽性(非特異的)               
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 髄液    |1 圧、蛋白、細胞数などの異常(表3参照)        
       |2 起炎体に対する抗体価の上昇             
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 CT     |単純ヘルペス脳炎では側頭葉を中心とした異常吸収域が特徴的
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 脳波    |全般的徐波化や突発性異常波・単純ヘルペス脳炎では側頭部ま
       |たは前頭部に周期性放電                 
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 誘発電位  |経路が障害されれば波形の異常や潜時の遅延        
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診断

 @急性に発熱意識障害、種々の神経症状が発現し、髄液所見、脳波、CTなどで異常を認めれば、(髄膜)脳炎と診断される。
 A通常は免疫学的に病原体を固定する。
 B原発性の脳炎であるか「二次性」の急性散在性脳脊髄炎であるかの鑑別は困難なことがある。
 Cくも膜下出血を初めとした脳血管障害、急性代謝性脳症、髄膜炎を含む発熱性の感染性疾患、膠原病やその近縁疾患(Behcet病など)で脳炎症状を呈する場合などと鑑別を要することがあり、他の随伴症状、検査結果、経過などに注意する。

管理上必要な検査(表2)

 病勢の経過を判断するため、および治療の副作用を監視するために、急性期は2〜3日から1週間毎に炎症反応や血算、生化学検査、(肝・腎機能)、一般検尿を行う。抗体価の追跡も特に診断を急ぐ時に頻回に行う。CT、脳波も状態に応じて1週間から1か月毎に行う。                

  表2 脳炎の管理上必要な検査
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血液および尿|1 白血球数、血沈、CRPなどの炎症を反映する検査(数日〜1週に一回)
      |2 治療薬剤の副作用監視の意味を含めて生化学、尿検査(数日〜1週
      |に1回)
      |3 抗体価(診断を急ぐ場合は適宜繰り返す)    
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髄液    |髄膜炎状が強ければ髄膜炎に準ずる。診断を急ぐ場合は抗体価を追跡
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CT,脳波、  |臨床症状、病勢による(急性期は1週に1回程度)
誘発電位  |
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メディカル・ノート
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脳における特殊なウイルス感染症
 進行性多巣性白質脳症 progressive multifocal leukoencephalopathyPML)は、免疫機能の低下を背景に発症する多巣性の脱髄を主病変とする疾患で、乏突起膠細胞や星細胞に封入体を認め、Papovaウイルスに属するJCウイルスが証明される。亜急性硬化性全脳炎subacute sclerosing panencephalitisSSPE)は麻疹ウイルス(nucleocapsidのみの分離された状態)の持続感染によるが、その経過からslowvirus infectionと呼ばれる病態の一つとされる。近年は、これらに加えてAIDSウイルス(HTLV-V)による中枢神経病変が問題となっている。また広義のslow virus infectionとしてCreutzfeldt-Jakob病はあまりに有名である。
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  表3 髄膜炎脳炎における髄液所見
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     |外観  |液圧   |細胞数   |蛋白  | 糖    |その他
     |    |mmH20   | mm3   |mg/dl  | mg/dl  |   
−−−−−+−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−−+−−−−−+−−−−−
正常   |水様透明|60-150  |5以下   |15-45  |50-75 2) |Cl125mEq/l
     |    |     |(M) 1)  |    |     |前後
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細菌性   |混濁、 |200-   |20-10,000 |50-1,500|40以下  |起炎菌
髄膜炎  |膿性  |1,000以  |(P)    |    |     |検出 
−−−−−+−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−−+−−−−−+−−−−−
ウイルス性|水様  |100-500  |10-1,000 |50-200 |正常   |   
髄膜炎  |    |     |(MときにP)|    |     |   
−−−−−+−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−−+−−−−−+−−−−−
結核性  |混濁、 |200-800  |25-1,000 |50-500 |40以下  |C1↓(trypto
髄膜炎  |飛塵  |     |(MときにP)|    |     |phan反応
−−−−−+−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−−+−−−−−+−−−−−
真菌性  |混濁   |200-800  |10-1,000 |50-500 |40以下  |   
髄膜炎  |    |     |(MときにP)|    |     |   
−−−−−+−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−−+−−−−−+−−−−−
レプトス |水様また|やや上昇 |10-100   |正常-100|正常   |Weil病
ピラ感染 |はxanth-|のことあ |(M>P)  |    |     |では黄
     |ochromia|り    |     |    |     |疸色 
−−−−−+−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−−+−−−−−+−−−−−
び慢性髄 |水様-  |正常-   |50-500  |50-500 |40以下のこ|腫瘍細
膜癌腫症 |混濁  |上昇   |(MまたはP)|    |とが多い |の出現
−−−−−+−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−−+−−−−−+−−−−−
neuro-  |水様  |ときに上昇|5-100のこ |50-100の|正常   |   
Behet   |    |     |とが多い |ことが多|     |   
     |    |     |(M)    |い   |     |   
−−−−−+−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−−+−−−−−+−−−−−
日本脳炎 |水様-  |100-500  |50-500  |50-100 |正常時に僅|   
     |飛塵  |     |(MときにP)|    |かに増加 |   
−−−−−+−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−−+−−−−−+−−−−−
単純ヘルペ|水様とき|100-500  |100-1,000 |50-200 |正常   |   
脳炎  |にxanth-|     |(MまたはP)|    |     |   
     |ochromia|     |赤血球  |    |     |   
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 1)M:単核細胞、P:多核細胞  2)血糖値の1/2〜1/3

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