概論
脳腫瘍とは、頭蓋内の諸組織すなわち脳実質(主に神経膠組織)・髄膜・松果体・結合組織・先天性遺残組織などから発生する新生物とこれらの部位にみられる転移性腫瘍を指す。あらゆる年齢で発生し得るが、星細胞腫、髄芽腫、小脳海綿芽腫、上衣腫、頭蓋咽頭腫は小児に多い。乳児期には、上衣腫が多く、小脳海綿芽腫が少ないことより、テント上腫瘍が多いが、幼児期にはこれが逆転する。主として成人に発生するものとしては、髄膜腫、神経膠芽腫、乏突起神経膠芽腫、下垂体腺腫、神経鞘腫があげられ、テント上腫瘍が圧倒的に多い。髄膜腫には、女性が多い(約2倍)という性差の指摘がある。脳腫瘍の約1割は転移性腫瘍であるが、脳腫瘍の頭蓋外転移はまれである(皆無ではない)。
家族性に腫瘍を発生するものがあり、神経線維腫症(Von Recklinghausen 病)、Von Hippel-Lindau 病、結節硬化症などのPhakomatosis の類があげられる。また、これらとは別に脳腫瘍の家族内発生例として、髄芽腫に多数の報告がある。
臨床症状
@頭蓋内圧亢進症状:慢性頭蓋内圧亢進症状が一般的で、頭痛、嘔吐、うっ血乳頭がtriasといわれるが、必発ではない。頭痛は朝、目覚めたときに多く出現する。嘔吐には嘔気を伴わないことがある(early morning proje-ctile vomiting)。うっ血乳頭の発生は、頭蓋内圧亢進より通常数時間から数日後にみられ、数カ月で二次性視神経萎縮をきたす。うっ血乳頭の初期では視力は正常であるが、次第に暗点の拡大がみられ求心性視野狭窄を呈する。脳のヘルニアによる神経症状の進行が認められると予後は不良。ときに血管障害の発生や髄液の通過障害などにより、急性に頭蓋内圧亢進をきたすこともある。
A痙攣発作:急速な頭蓋内圧亢進に伴って全身痙攣発作をみることがある。また、局所刺激症状としても部分発作やその全汎化がみられる。
B局所(巣)症状:局所機能障害やときに刺激症状を呈する。特殊な症状としては、前頭葉下面の腫瘍におけるFoster-Kennedy症候群(視神経萎縮と対側のうっ血乳頭)、松果体部腫瘍にみられるとされるParinaud症候群(上下注視麻痺、輻輳麻痺、但し定義に一部混乱あり)、小脳橋角部腫瘍にみられるBruns眼振(振幅大頻度小が病巣側)などが有名。視床下部-下垂体系や松果体部腫瘍では種々の内分泌異常に関連した症状(性機能低下、甲状腺機能低下、副腎皮質機能低下、小人症、肥満、末端肥大症、尿崩症、思春期早発症など)を認める。また、ホルモン産生性の転移性腫瘍や各種頭蓋内疾患に伴う抗利尿ホルモンの不適当分泌(SIADH)にも注意が必要。
C脳卒中様症状:まれに腫瘍内出血(下垂体腺種が下垂体卒中として有名。他に悪性度の高い腫瘍、石灰化に富む乏突起神経膠腫、低頻度ながら血管に富む髄膜腫などでもあり)、くも膜下出血をきたすこともある。腫瘍内血管閉塞をきたし、浮腫による急速な容積の増大や、ごくまれに腫瘍外の血管を圧迫しての脳梗塞も含め、いずれも突然に卒中様発作として発症あるいは症状の増悪あり。
一般検査所見(表1)
血液および尿検査には、消耗状態をきたさない限り通常明らかな異常はない。但し、内分泌異常を伴えば、血糖、電解質の異常などが見られる(内分泌疾患の項参照)。Lindau病では、多血症を呈することがある。転移性腫瘍が疑われるときは胸部X線像をまず確認。
特殊検査所見(表1)
@頭蓋単純撮影:頭蓋内圧亢進による一般症状として、頭蓋縫合の離開(小児)、指圧痕(成人)、トルコ鞍内腫瘍では、トルコ鞍のbalooning、double floor、聴神経腫瘍で内耳道の拡大。
A脳血管撮影:腫瘍による脳血管の偏位(浸潤性腫瘍では著明でない)がみられ、位置関係により、遠隔徴候と近接徴候がある。腫瘍の組織学的性状により、腫瘍部位に不規則な内腔を持つ血管の出現、血管走行の蛇行、動静脈異常吻合、早期静脈造影、血管増正(髄膜腫のsun-burst appearance, diffuse over shadowing、神経膠芽腫の brushing stain など)、subependymal vein の造影増強などを認めることがある。
BCT:単純CTでは、脳実質と異なるX線吸収値の領域が存在。石灰化は高吸収域として鋭敏に描出。出血も高吸収域となり、出血、壊死など多彩な組織変化のある神経膠芽腫では不規則な高吸収域と低吸収域を示す。嚢胞(小脳海綿芽腫、頭蓋咽頭腫など)を認めることもある。造影CTでは、ring状や不規則な増強効果(神経膠芽腫や転移性腫瘍の一部など)、均一な増強効果(髄膜腫、髄芽腫、神経鞘腫、転移性腫瘍の一部など)をみるが、血管の乏しい転移性腫瘍や良性の星細胞腫、乏突起神経膠腫などでは造影剤の集積はみられない。metrizamide CT(CT-cisternography)では下垂体近傍腫瘍、聴神経腫瘍などの輪郭を描出。emission CTでは代謝、血流の異常が検出される。
CMRI:病巣の領域で脳実質と異なる信号強度を認め、浸潤や浮腫の領域を詳細に検出し得る。造影剤は、常磁性物質であるGadolium-DTPAが静注にて使用され、X線CTと同様BBBの破壊された領域に集積する。
D脳波:局在病変の存在を示す所見として位相の逆転(Phase reversal),左右対称部の電位不等(voltage difference)、α波、速波、spindle,K-complexなどの減弱または欠如(lazy activity),突発性の異常(棘波焦点、除波焦点)。病巣の深さに関しては、主に皮質活動の障害の程度により段階的異常あり。
E誘発電位:体性感覚誘発電位(SEP)、視覚誘発電位(VEP)、聴性脳幹反(ABR)などでそれぞれの経路に異常あれば、潜時や波形の異常。
F髄液検査:(頭蓋内圧亢進症状のある場合の腰椎穿刺は非常に危険で通常は禁忌)、聴神経腫瘍で蛋白の異常高値をみることあり。髄芽腫、松果体腫瘍(胚芽腫)、転移性腫瘍、その他悪性度の高い腫瘍では細胞診にも診断的価値あり。
表1 脳腫瘍の検査所見
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血液および尿 |特に内分泌異常を伴う場合、電解質、糖、浸透圧などに異常(ホ
|ルモン実測値の異常)。
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頭蓋単純X線像|頭蓋内圧亢進や腫瘍そのものによる頭蓋骨(トルコ鞍にも注意
|)の変化。異常石灰化。
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胸部単純X線像|転移性腫瘍の原発巣,転移巣。
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脳血管撮影 |主要血管の偏位。異常血管。
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CT・MRI |腫瘍部位を中心とした異常陰影。
|血液一脳関門が破壊されている領域では造影剤による増強効果
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脳波 |局在性の異常に注意。phase reversalや異常波焦点など。
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誘発電位 |経路に異常があれば、波形の異常と潜時の遅延。
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診断
@頭痛を初めとした頭蓋内圧亢進症状、局所症状が進行性にみられれば、脳腫瘍を疑う。
A頭部CT、脳血管撮影、その他の補助検査により、腫瘍であることの診断、局在、大きさの確認。
B上記により、腫瘍の組織形(悪性度)についてもかなりのところまで測定可能。
C鑑別診断としては、進行性に頭蓋内圧亢進や神経症状を呈する頭蓋内感染性疾患、炎症性疾患に注意。脳膿瘍とは、占拠性病変としても鑑別を要す。その他、良性頭蓋内圧亢進症(偽性脳腫瘍)と呼ばれる状態があり、原因検索が必要となることもある。脳卒中様発作で発症する腫瘍が存在することは前述のとおり。いずれも諸検査にて鑑別する。
管理上必要な検査
悪性度や大きさ、治療によりどの程度摘除されたか、および治療の侵襲(手術、放射線、化学療法)により、一般検査、CT(MRI)、脳波など諸検査を適宜行うことになる。全摘出と判断された症例の遠隔期には、6か月から1年に1度CT,脳波。
メディカル・ノート
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グリオーマ(神経膠腫)の「腫瘍マーカー」
S-100蛋白は分子量約20000で、α、βの2つのサブユニットを持ち、中枢神経組織では神経膠細胞に多く含まれるが、星細胞腫の未分化型では分化型より有意に含量が低値。glial fibrillary acidic protein(GFAP)は分子量約50000の酸性蛋白で、通常膠細胞および膠細胞由来の腫瘍細胞に認められるが、未分化型では、含量が少なく、細胞間でも含量が著しく不均一。vimentinは間葉系細胞由来の中間線維を構成する分子量約57000の蛋白で、一般に髄膜腫に認められ、しばしば星細胞腫、上衣腫、神経膠芽腫からも検出されるが、髄芽腫、乏突起神経膠腫からは通常認められない。その他、myelin associate glycoprotein(MAG),myelin basic protein(MBP),酵素である aldolase C (ALC),cyclic nucleotide phosphohydrolase(CNP)、neuron specific enolase (NSE) などについても局在検索が進められている。
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