概論
外傷性脳疾患の大部分は、急性期の診断・治療で生命および機能予後が決せられる。その多くは外傷の既往が明らかで外科系病院を初診し、内科医が直接診療に携わることは少ないと思われるが、緊急の検査・治療が必要となる患者の診断のポイントについては一応把握しておく必要がある。一方、慢性期に問題となるものとして、慢性硬膜下血腫、外傷性てんかんなどがあげられるが、これらは内科臨床場面でしばしば遭遇する疾患である。
臨床症状
@ 頭部外傷急性期:次のような場合は緊急の脳外科的精査および脳外科医へのコンサルテーションが必要である。30分以上続く意識障害(見当識障害、混乱した会話、過度の興奮性、不穏状態などにも注意):受傷直後の短時間の意識障害からの回復後、再び出現、増強する意識混濁あるいは頭痛・嘔気・嘔吐:局所的神経症状(視力障害、眼球運動、瞳孔異常、麻痺など):髄液漏(髄液が副鼻腔や耳から外部に流出するもので、テステープで糖が含まれることを確認):痙攣発作など。重症頭部外傷では、ストレス潰瘍による消化管出血、神経原性肺水腫や中枢性換気障害による呼吸障害、ショック症状などを呈することがある。急性期の診療に際しては併発外傷、特に脊髄損傷、胸腹部・骨盤外傷の有無についても留意する必要がある。
A注意すべきバイタル・サイン:急激に頭蓋内圧が亢進するとまず血圧が上昇し、ついで徐脈が出現する。重篤な意識障害がありながら、血圧が正常あるいは低下している場合は出血などによるショックの併存を考える。意識障害や瞳孔異常に伴う頻脈、呼吸促進、高熱(中枢性過高熱:高熱にも拘らず、四肢・腹部などは発汗・皮膚温が低下している)は予後不良の徴候である。
B慢性硬膜下血腫の症状:通常外傷後3週から2〜3か月たってから発病する。多くは比較的軽微な外傷が原因となり、中には外傷歴がはっきりしない例(約10%)もある。中・高年者に多いが若年者にも発病する。またアルコール常用者に多い。若年者では頭蓋内圧亢進症状(頭痛・嘔気・嘔吐)で発症し、次第に増強、ついで片麻痺などの巣症状が出現してくることが多い。高齢者では頭蓋内圧亢進症状が目立たず、進行性の痴呆様症状をもって発症してくることが少なくない。中には脳卒中様発作やてんかん発作などの急性発症を呈するものもあり、注意を要する。本疾患は疑わない限り病歴と診察だけでは見逃すことがあり、また発症後は急激に症状が進行し重篤な意識障害をきたすことがあり、本疾患に対する認識と十分な注意が必要である。
C外傷性てんかん:発作型としては部分発作ないし二次的全汎発作が大部分を占め、純粋な大発作や小発作はきわめてまれである。発生率は、外傷で入院を要する患者の約5%である。その多くは受傷後1年以内に発症し、70〜80%は2年後までに初発する。本症を発生する危険因子として、早期痙攣(受傷後1週間以内に発生した痙攣発作)の存在と外傷に起因した異常CT所見の残存があげられるが、他に硬膜裂傷を伴う頭蓋骨骨折、局所神経症状の存在、遷延性意識障害などでもリスクは高くなる。予後は比較的良好で断薬できる例も少なくない。
一般検査所見(表1)
@外傷急性期には、感染を伴わない場合でも白血球増加、赤沈亢進、CRP陽性化をみることがある。重症頭部外傷ではときに高Na血症、あるいは低Na血症、動脈血ガス分析でのPO2、PCO2の異常を認める。また貧血や感染の合併にも注意する。
A髄液漏などで髄膜炎を併発している場合は髄液の細胞数増多、蛋白増加、糖減少をみる。脳挫傷や外傷性くも膜下出血では髄液は血性となる。但し、著明な脳腫脹により意識障害をきたしている場合は、腰椎穿刺にて脳ヘルニアを引き起こすことがあるので注意を要する。
B頭蓋骨X線撮影:注意を要する骨折は、a)硬膜上血腫を合併する可能性の高い側頭部(中硬膜動脈走行部)、上矢状静脈洞・横静脈洞部の骨縫合離開や線状骨折、b)頭蓋底骨折、c)視束管や眼窩骨折、d)陥没骨折などである。正面および側面像だけでは骨折を見逃すことがあり、必要に応じてTowne撮影(後頭部)、Water撮影(眼窩・顔面骨)、視束管撮影、頭蓋底(立体)撮影などを行う。脳挫傷や硬膜下血腫では頭蓋骨X線撮影上、異常を認めないことも少なくない。
表1 外傷性脳疾患の検査所見
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頭蓋骨X線撮影:@注意を要する骨折:側頭部および上矢状静脈洞・横静脈洞部の縫合開や線状骨折、頭蓋底骨折、視束管や眼窩骨折、陥没骨折。A重篤な頭部外傷でも異常所見を認めないことがある。但し、受傷部位によっては特殊撮影を行う。
頭部CTスキャン:@注意を要する急性期所見:頭蓋内高吸収域、脳室の圧排・変形、脳溝・くも膜下腔の消失・高吸収域、硬膜下水腫、気脳症。A慢性硬膜下血腫:高吸収域、等吸収域あるいは低吸収域。脳室の圧排・変形、脳溝の消失を伴う。
脳波:@急性期所見:一定せず。異常は一過性のこともあり。予後とは必ずしも相関しない。A外傷性てんかん:突発波や基礎波の異常を認めるが、必発ではない。
大脳誘発電位(ABR、SEP、VEP):波形の遅延・消失、振幅の低下。重症頭部外傷では予後と相関。
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特殊検査所見(表1)
@頭部CTスキャン:急性期の頭蓋内血腫、脳挫傷は高吸収域として認められる。他に注意すべき急性期所見として、脳室系の圧排・変形、脳溝やくも膜下腔の消失・高吸収域(外傷性くも膜下出血)、硬膜下の低吸収域(硬膜下水腫)、気脳症などがあげられる。受傷後1週間、特に初 めの24時間は新たな病変が出現・進行し得るので外傷の程度によっては数時間後に再検査が必要である。慢性硬膜下血腫は本検査でほぼ100%診断できる(血腫は高吸収域、等吸収域あるいは低吸収域として認められる。両側性血腫や等吸収域血腫は脳室の圧排・変形、脳溝の消失に注目すれば診断可能である)。
A脳波:急性期には種々の異常所見を示すことが少なくないが、一過性のことも多く、必ずしも脳蓋内血腫や脳挫傷を示唆したり、後遺症を予知するとは限らない。外傷性てんかんでは、発症前あるいは発症後に突発波や基礎波の異常(全般性あるいは局所性の徐波や左右差など)を認めることがあるが、必発ではなく、正常脳波所見は本症を否定するものではない。局所性徐波あるいは棘波の持続ないし悪化、および徐波あるいは棘波の両側化は外傷性てんかん発作を発生する可能性が高い。
B大脳誘発電位(ABR、SEP、VEP):大脳・脳幹機能の障害の程度に応じて波形の遅延ないし消失、振幅の低下を認める。急性期頭部外傷患者の予後判定に有用である。
C脳血管撮影:頭部外傷に続発し得る血管障害(例:血管攣縮、脳動静脈瘻、仮性脳動脈瘤、解離性頚部動脈瘤など)は本検査によって診断可能となる。
D頭部MR-CT:X線CTでは検出されないような軽微な挫傷でも本検査によってはっきりと検出されることがある。
診断
@急性期には器質的脳損傷を示唆する臨床症状(意識障害、脳蓋内圧亢進症状、局所的神経症状、髄液漏、痙攣発作など)を呈する場合は直ちに頭蓋骨X線撮影およびCTスキャンを行う。
Aまた種々の合併症状および併発外傷(特に眼窩・顔面外傷や頚髄損傷)に注意する。 B頭蓋骨X線および頭部CTスキャンにて急性期頭部外傷の重症度はほぼ確実に診断可能であり、これにより緊急手術の適応を決定する。但し、初回CTでは比較的軽度の所見でも当初の1週間は増悪し得るので臨床症状によってはCTを再検する。
C重症頭部外傷の予後判定には大脳誘発電位の測定が有用である。
D慢性硬膜下血腫は病歴と臨床症状により本疾患を疑い、頭部CTスキャンで診断を確定する。診断後は直ちに脳外科医にコンサルテーションする。
E外傷性てんかんの診断はあくまでも病歴と臨床症状によって下す。正常脳波でも本疾患は必ずしも否定できない。
管理上必要な検査(表2)
急性期には診断確定・治療開始後も、変化・進行し得る病態把握のための頻回の検査が必要である。慢性期には続発症の予測・管理のため、またリハビリテーション的見地からの検査が必要となる。
表2 外傷性脳疾患の管理上必要な検査
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@急性期:a)軽症例、必要に応じてCT再検。b)重傷例、CT、脳波、大脳誘発電位、脳蓋内圧モニター、動脈血ガス分析、血算、血清電解質。くも膜下出血例では脳血管撮影。
A慢性期:a)WAISその他の高次脳機能検査。b)てんかん発症リスクの高い例では3〜6か月間隔で脳波および抗痙攣剤血中濃度。c)慢性硬膜下血腫、水頭症などの発生が予測される場合は1〜2週間隔でCT。
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メディカル・ノート
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頭部外傷で注意すべき主な合併症・続発症
@髄液漏:頭蓋底骨折を通して髄液が副鼻腔(前頭洞、篩骨洞、が多い)や耳から外部へ流出するもの。受傷後48時間以内に急性発症することが多いが、遅発性に突然多量漏出したり、明らかな漏出なしに髄膜炎で発症することもある。X線撮影やCTで副鼻腔・頭蓋内に空気陰影を認めることがある。多くは1〜2週間以内に自然に瘻孔が閉鎖するが、髄膜炎を併発する危険性が高く、その間は抗生剤投与と頭部挙上位での安静が必要である。2週間以上持続したり、髄膜炎を併発したものなどでは手術の適応となる。
A頚動脈・海綿静脈洞瘻:頭蓋底骨折により海綿静脈洞部内頚動脈の損傷をきたし発生する。受傷直後ないし1か月内外の潜伏期の後に発症することが多い。拍動性眼球突出、結膜の充血浮腫、外眼筋麻痺(外転神経麻痺が最も多い)、視力障害、頭痛などを呈する。脳血管撮影により診断が確定する。
B続発性水頭症:著明な外傷性くも膜下出血による髄液循環の障害により発生するもので、急性期にも慢性期(正常圧水頭症として)にも発症する。CTにより診断が確定する。 C慢性硬膜下血腫:急性期には検査上明らかな異常を認めないで慢性期になって発症してくるものと、急性期の硬膜下血腫から移行してくるものとがある。本文参照。
D外傷性てんかん:本文参照。
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