概論
@痴呆とは進行性の全般的な知的機能障害と人格変化で特徴づけられる精神症状で通常は脳の器質性疾患によりもたらされるものをいう。
A痴呆疾患の有病率は65歳以上で4〜5%、85歳以上で20%以上。
B痴呆をきたし得る疾患を表1に示す。わが国では脳血管性痴呆が多く、欧米ではアルツハイマー型痴呆が多い。
C脳血管性病変が痴呆の原因となり得るのは、a)梗塞巣の総和が50mlを越える場合、b)病巣が知的機能全体に影響を及ぼし得る部位(両側ないし優位側の前内側視床、海馬、帯状回、側頭葉基部など)にある場合、c)白質のび慢性病変(Binswager型脳症、lacunar stateなど)による場合。
D初老期に発症するアルツハイマー病と老年期に発病する老年痴呆の病理学的変化はほぼ共通しているのでアルツハイマー型痴呆と呼ばれることが多い。アルツハイマー型痴呆は女性に多い(男女比1:3)。
表1 痴呆をきたし得る疾患
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A.脳血管性痴呆(多発梗塞性痴呆)
B.Alzheimer型痴呆(Alzheimer病、老年痴呆)
C.Pick病
D.その他の変性疾患による痴呆:進行性核上性麻痺、Huntington病、オリーブ・橋・小 脳萎縮症、Lewy小体病
E.内分泌・代謝性疾患:甲状腺機能低下症、副甲状腺機能異常、肝疾患、低血糖症、高C a血症、低Na血症、脱水症、尿毒症、高脂質圧症
F.低酸素症:肺炎、肺気腫、心不全、無酸素尿症
G.正常圧水頭症
H.欠乏性疾患:Wernicke-Korsakoff症候群、B12・葉酸欠乏、ペラグラ
I.中毒:治療薬剤、化学薬品、一酸化炭素
J.頭蓋内占拠性病変:脳腫瘍、脳膿瘍、慢性硬膜下血腫
K.感染症:Creutzfeldt-Jakob病、Gerstmann-Strausler-Sheiner症候群、髄膜炎(細菌症、結核症、真菌症、癌性)、脳炎(単純ヘルペス、日本)、梅毒(進行麻痺)、脳寄生虫症、progressive multifocal leukoencephalopathyAAA HREF="imd00237.html">AIDS-dementia complex
L.その他:多発性硬化症、てんかん、hyperviscosity syndrome
M.仮性痴呆(depressive pseudodementia)
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臨床症状
@脳血管障害:片麻痺、感覚障害、視野欠損などの神経症候を伴うことが多い。脳卒中を思わせる突然の発症、階段状の進行、動揺性の経過が特徴。すべての知的機能が侵され得るが、初期には知的障害にむらがあり「まだら痴呆」と呼ばれることがある。感情失禁、強迫泣き・笑い、夜間せん妄をしばしば認める。
Aアルツハイマー型痴呆:記憶および各種の認識機能が進行性に侵される。痴呆の程度は脳血管性痴呆よりも高度となる。若年発症例では反響言語、語間代、視空間失認、鏡症状などを認めることがある。愛想よくもっともらしい応対をするが、話の内容は空疎で、思考の滅裂や人格の形骸化を認める。徘徊、多動、濫集傾向などもよくみられる。原始反射、Babinski反射、軽度の筋固縮などは出現し得るが、明らかな麻痺や失調はきたさない。
B仮性痴呆:老年期に初発するうつ病では、物忘れが目立つこと、周囲に対する関心の喪失、興奮、妄想などのために器質性の痴呆疾患との鑑別が必要。発症は比較的急速で、不眠、食欲不振、不安などを伴い、物忘れの自覚があることや言語機能は正常であることなどが特徴である。
一般検査所見(表2)
内分泌疾患などのいわゆるtreatable dementiaの鑑別が大切である。
表2 痴呆の診断のためのスクリーニング検査
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@一般検査、血沈、A検尿(糖、蛋白、ケトン、沈渣)、B検便(潜血)、C血液(血糖、BUN、Na、K、Cl、VitB12、葉酸、NH3)、D甲状腺機能(T3、T4、TSH)、E梅毒血清反応、F胸部単純撮影、G動脈血ガス分析、H心電図
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特殊検査所見(表3)
脳血管性痴呆、アルツハイマー型痴呆は特異的検査所見に乏しい。
表3 特殊検査所見
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X線CT |脳萎縮、脳血管性病変、脳腫瘍、硬膜下血腫、水頭症などの診
|断ができる。アルツハイマー型痴呆ではび慢性の脳萎縮を認め
|るが、初期には生理的な加齢変化と区別できない。ピック病で
|は前頭葉・側頭葉の局所的萎縮を認める。
MRI-CT |小梗塞巣や脱髄巣などの検査に優れている。
PET、SPECT |局所脳血流量(rCBF)や脳酸素消費量(CMRO2)などの脳循環
|代謝諸量の異常は脳萎縮に先立って認められる。
脳波 |アルツハイマー型痴呆では初期には特異的な所見に乏しいが進
|進行に従い全般的な徐波化が著明となる。脳血管性痴呆や脳腫
|瘍では局所的な異常波をきたしやすい。クロイツフェルトーヤ
|コブ病における周期性同期性放電、肝性脳症における三相波、
|てんかんにおける棘波は診断的意義が大きい。
事象関連電位 |認知機能を客観的に評価する目的で施行する。痴呆患者では潜
(P-300) |時の延長が認められ、代謝性脳症では臨床症状の変化と潜時の
|変動が関与する。
|
脳脊髄液 |脳炎・髄膜炎の疑われるときには必ず実施する。
|結核性髄膜炎では単核球主体の細胞増多と糖の減少、クリプト
|コッカス髄膜炎では墨汁塗抹標本による菌体の観察、単純ヘル
|ペス脳炎ではウイルス抗体価の上昇、癌性髄膜炎では細胞診に
|よる腫瘍細胞の検出などに留意する。血清梅毒反応陽性例では
|髄液TPHAを検査する。各種神経伝達物質およびそれらの代
|謝産物の測定により脳内の神経伝達物質の異常を知ろうとする
|試みも盛んである。
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診断
@痴呆の初期診断は困難なことが多く、数か月の経過観察を要することが少ない。米国精神医学会精神障害者診断統計便覧(DSM-V-R)による。痴呆の診断基準の要約を表4に示す。
A痴呆の程度や状態の評価が必要。スクリーニング検査としては長谷川式簡易知能機能評価スケール(表5)がよく用いられる。運動機能、感情機能、行動異常などを含めた全体的な評価法にはGBSスケール(Gottfries、Brane、Steenら、1982)など。
B脳血管性痴呆の診断にはHachinskiらによるischemic score(表6)を参考にする。
Cアルツハイマー型痴呆の診断基準には米国のNINCD-ADRA研究会によるものがある(表7)。
表4 米国精神医学会精神障害診断統計便覧(DSMV-R)による痴呆の診断基準(要約)
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A. 近接および遠隔記憶における障害が認められること。近接記憶の障害は、5分後に3つの物質を想起することができないことによって示される場合がある。遠隔記憶の障害いは過去の個人的なことあるいは一般的な常識を想起することができないことによって示されることがある。
B. 少なくとも以下の内1つあること。1)抽象思考の障害:関連した言葉の違いや類似点が分からない:言葉や概念を定義することができない:その他の同様な作業。2)判断力の障害:個人間や家族あるいは仕事に関連した問題に適切に対処できない。3)失語や失行、失認および構成困難などの高次皮質機能障害があるこ。4)人格変化、病前性格の変化や尖鋭化がみられること。
C. AおよびBの障害が職業や日常の生活あるいは対人関係に支障を及ぼす程度であること。
D. せん妄の経過中にみられないこと。
E. 1)あるいは2)のどちらかであること。1)病理や理学的診療あるいは臨床検査によって、障害の病因と判断される特定の器質的要因が認められること。2)上記の所見がない場合には、もし障害が認知機能障害の原因となる定型うつ病のような非器質性精神疾患によるものでなければ、病因と考えられる器質的要因が推定されること。
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表5 長谷川式簡易知的機能評価スケール(痴呆診査スケール)
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質問内容 | 配点
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1. 今日は何月何日か?(または)何曜日か? | 0, 3
2. ここはどこ? | 0, 2.5
3. 年齢は? | 0, 2
4. 最近起こったできごとからどの位たったか? | 0, 2.5
(または)いつ頃か? |
5. 出生地は? | 0, 2
6. 大東亜戦争の終了年は? | 0, 3.5
(または)関東大震災はいつだったか? |
7. 1年は何日か?(または)1時間は何分か? | 0, 2.5
8. 日本の総理大臣名は? | 0, 3
9. 100から7を引くと? | 0, 2, 4
(100-7=93)、(93-7=86) |
10. 数字の逆唱(6-8-2)、(3-5-2-9) | 0, 2, 4
11. 5つの物質の記銘 | 1.5, 2.5, 3.5
(歯ブラシ、100円硬貨、ナイフ、櫛、スプーン)|
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得点:31以上=Normal、30.5〜22=Sub-normal、21.5〜10.5=Pre-dementia、
10以下=Dementia
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表6 Ischemic Score (Hachinski VC et al.:Lancet ii:207,1974)
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急激な発症 2点、階段状の進行 1点、症状の動揺 2点、夜間せん妄 1点、人格の保持 1点、抑うつ状態 1点、身体的愁訴 1点、感情失禁 1点、高血圧の既往または合併 1点、脳卒中の既往 2点、動脈硬化を示す所見 1点、局所神経症候 2点、局所神経徴候 2点
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合計4点以下なら原発性痴呆を、7点以上なら脳血管性痴呆を示唆する。
表7 Alzheimer病(AD)の臨床診断基準(NINCDS-ARDA研究班)(Mckhann G et al.:Neurology 34,939,1984)
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1. Probable AD:
・臨床検査・知能検査で痴呆があり、神経精神医学的検査で確認されていること。
・認識機能の二つまたはそれ以上の領域で欠陥があること。
・記憶および他の認識機能が進行性悪化。
・意識障害がないこと。
・起始は40〜90歳で65歳以後もっとも多い。
・記憶や認識機能を進行性に悪化させるような全身疾患や他の脳疾患がないこと。
2. Probable ADの診断を支持する所見(略)
3. AD以外の痴呆の原因を除外したうえで、Probable ADの診断に合致する他の臨床的特徴(略)
4. Probable ADの診断が妥当でないことを示す所見。(略)
5. Probable ADの臨床診断:
・痴呆を起こすに十分とみなされる他の神経学的、神経医学的あるいは全身的な異常所見がなく、しかも痴呆症候があること。また、起こり方、症候、臨床経過に動揺があること。
・二次的な痴呆を起こすような全身疾患または脳疾患はあっても、それが患者の痴呆の原因とみなされない場合。
・他に特殊な原因がなく、進行性の重篤な認識障害のみの場合には、研究上はProbable ADとして使用するべきである。
6. Definite ADの診断基準:
・臨床的にはprobable ADであり、生検または倍検から病理組織学的な証拠が得られていること。
7. 研究目的でADの疾患分類をするさい、次のようなことの疾患のサブタイプを鑑別し得る特徴を指摘しておかなければならない。(略)
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