概論
血液ガス分析を正しく評価し、診断、治療に反映させてゆくためには、患者の病歴をよく検討し、検体が採取された時点での呼吸や循環の状態、吸入O2濃度などの条件を、十分に把握していなければならない。日常行われる動脈血ガス分析の基本的な指標は@pH、A動脈血二酸化炭素分圧PaCO2、B動脈血酸素分圧PaO2、C血漿重炭酸イオン濃度HCO3-、及びBase Excess(B.E.)である。
測定法
動脈血ガス分析で実際に測定されるのは、pH、PaCO2、PaO2であり、これらの値から計算によって、HCO3-、BE、SaO2等が求められる。pHは、pHガラス電極により、検体のH+イオン濃度の変化を電圧として測定し、pHで標示したものである。PCO2電極は、pHガラス電極の表面をCO2分子を透過する膜で多い、電極との膜の間に重炭酸塩を入れたもので、検体をこの膜に接触させると、検体中のCO2と膜の内側の重炭酸塩基中のCO2とが平衡してpHの変化を生じる。この変化を電圧としてとらえてPaCO2を求めている。PaO2の測定は、ポーラログラフの原理に基づく酸素電極(Clark電極)が用いられる。O2分子が電気還元されて生じる電流を測定しPO2を求める。pHとPaCO2の測定値からHenderson-Hasselbachの式によりHCO3-が、Siggaard-Andersonの式によりB.E.が各々計算される。
測定上の注意
@採血は、患者の呼吸状態が変わらないよう、できるだけ不安や疼痛を取り除き、一度で成功させることが肝要である。
Aヘパリンの混合による変化は、通常問題にならないが、必要最小量にとどめる。
B採血時に力を加えて吸引すると、気体と液が分離したり、周辺から空気が流入したりするので注意する。
C大きな気泡が入ったときは、できるだけ振動を与えずに、直ちに追い出す。
D採血から測定までの間にも、血球の代謝によりpH、PaO2は徐々に低下し、PaCO2は上昇する。0℃の氷中では、代謝は抑制され、2〜3時間以内に測定すれば臨床上問題はない。
E患者の体温が37℃と大きく異なる場合は温度補正を行う。測定温度より体温が高ければPaO2、PaCO2は低めとなり、pHは高めとなる。補正値は1℃につきPaO2は6〜7%、PaCO2は4〜5%、pHは0.0147である。
正常値
pH 7.34〜7.44 HCO3- 23〜28mmol/L
PaCO2 35〜45torr B.E. ±2mmol/L
PaO2 80〜100torr
PaO2の正常値は年齢とともに低下する。
(PaO2=100-0.3×年齢)
異常値の意味
表1 低O2血症のメカニズムによる分類
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@肺胞低換気:a.慢性閉塞性肺疾患:肺気腫、慢性気管支炎、気管支喘息など。b.梗塞性障害:肺線維症、胸膜炎、気胸、胸郭の高度変形、肥満など。c.神経筋疾患:重症筋無力症、ギランバレー症候群、上位頚椎の障害、筋萎縮性側索硬化症など。d.呼吸中枢の障害、抑制:麻薬、麻酔剤、睡眠剤、脳幹の血管障害、脳幹腫瘍など。e.その他:代謝性アルカローシス、粘液水腫、sleep apnea、原発性肺胞低換気など。
A換気血流比不均等分布:慢性閉塞性肺疾患、間質性肺炎、肺塞栓など、ほとんど全ての肺疾患に存在する。
B拡散障害:間質性肺炎、塵肺症、癌性リンパ管腫、肺水腫など。
C右−左シャント:先天性心血管奇形、無気肺、広範な肺炎、肺水腫など。
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@低O2血症:低O2血症の原因となる疾患を、そのメカニズムにより分類すると表1のようになる。これらのメカニズムがここの肺疾患に単独で存在することは稀で、いくつかが複合して低酸素血症を招く。A-aDO2(肺胞気動脈血酸素分圧較差)は、肺におけるガス交換障害の指標として有用であり、次の簡便式により求められる。
A-aDO2 = PAO2 - PaO2
PAO2 = (760-47)*FiO2 -(PaCO2/R)
(PAO2:肺胞気のO2分圧、FiO2:吸入気O2濃度、R:呼吸商、空気吸入時には PAO2 150 -(PaCO2/0.8) として大きな問題はない。正常では10torr以下。)
肺胞低換気ではA-aDO2の開大を伴わずにPaO2が低下し、その他のメカニズムではPaO2の低下とともにA-aDO2も開大する。
APaCO2の異常:PaCO2は換気と直接関係があり、換気が減少すればPaCO2は上昇し、換気が増加すればPaCO2は低下する。PaCO2の上昇にはPaO2の低下を伴う場合がほとんどであり、表1の@の疾患群およびAの疾患群の一部がPaCO2上昇の原因となる。PaCO2の低下する疾患は、過換気症候群が代表的である。間質性肺炎や肺塞栓、喘息発作などでも過換気を伴うことがあるが、これらの疾患では多くはPaCO2が低下している。
BpHの異常:pHは呼吸性因子としてPaCO2と代謝性因子としてのHCO3-にっよて規定され、
pH(比例する)〔HCO3-〕/PaCO2 と表すことができる。
pHの調節は、肺の換気、細胞内液、外液中の緩衝系、腎の調節系によって行われる。換気による調節は、10〜20分で発現するが、代謝性の調節(主として腎における)は完成するのに3〜4日を要する。したがって急速にPaCO2の上昇が起きた場合、腎の代償が十分でなく、pHは大きく低下し、HCO3-の上昇も小さい。PaCO2の上昇が徐々であれば、腎の代償が追いついてpHの低下は小さい。
C代謝性アシドーシス:外から酸が加えられた場合や体内での代謝異常の結果、酸が増加した場合、あるいは腎や消化管よりHCO3-が失われた場合などに起こる。HCO3-、B.E.は低下する。呼吸性の代償によりPaCO2は低下するが、アシドーシスが高度になると呼吸も抑制されることがある。
DAnion GapはNa+-(Cl-+HCO3-)として求められ、正常では8〜16mEq/Lである。糖尿病性ケトアシドーシスや乳酸アシドーシスなどで体内に有機酸(陰イオン)の蓄積をみるとAnion Gapは大きくなる。Anion Gapを計算することによって代謝性アシドーシスの原因をAnion Gap が正常か増加しているかによって分類すると表2のようになる。
E代謝性アルカローシス:H+(及びCl-)の喪失またはHCO3-の過剰による。Cl-不足によるものとそうでないもの。すなわち食塩水の投与によって改善するものとしないものとに分類すると表3のようになる。呼吸性の代償があるとPaCO2は上昇しPaO2が低下するが、PaO2低下とK欠乏によって再び換気が刺激されるためPaCO2は60torr以上にはならない。
表2 代謝性アシドースの原因疾患
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Anion Gap 正常 | Anion Gap 増加
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HCO3の喪失:消化管からの喪失(下痢|H産生の亢進:ケトアシドーシス、乳酸性アシ痢・腸瘻、膵液のドレナージなど)。腎|ドーシス、飢餓、アルコール中毒。H+排泄の
からの喪失、(近位尿細管性アシドーシ|障害:尿毒症。
ス、ダイヤモックスの投与など) |薬物中毒:サリチル酸、メタノール、エチレンなど)。 |グリコール、トルエンなど。
希釈性アシドーシス |
酸の投与:塩化アンモニウムなど。 |
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表3 Cl反応性とCl抵抗性アルカローシス
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Cl反応性 | Cl抵抗性
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胃液(HCl)の喪失 |原発性アルドステロン症
利尿剤による腎よりのCl-の喪失 |続発性アルドステロン症(悪性高血症、腎血管性
慢性高CO2血症の急激な是正 |高血圧、Bartter症候群etc)
大腸繊毛状腺腫 |クッシング症候群
先天性Cl下痢症。 |甘草、グリチルリチン酸の投与重度のK+欠乏
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Significance band(Arbus GS:CMA Journal 109:291-293,1973)
メディカル・ノート
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Significance band(図1):正常人において急性および慢性にPCO2を変化させた場合、全症例の95%が含まれる領域をbandとしてグラフに表したものをsignificance bandという。significance bandを外れれば、混合性酸塩基平衡異常であり、band内であれば単純性の異常である可能性が強い。
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